●「課題解決コンペ」でイノベーションを起こす
司会:実は私たちで、技術研究の長期未来予測という体系的な検討を行っています。このまま何もせずに黙っていると、2030年までに約780万人の生産年齢人口減少は自明です。しかし先ほどから申し上げているAIやロボットが産業化できれば、10年後のGDPは約50兆円、年率でいうと0.6パーセントの押し上げはあるだろうと思われます。さらに新しい雇用に関しては、およそ500万人の新規雇用が創出できるはずである。こういう検討結果を公表しています。
とにかく、ブルーオーシャンが開きつつあるという認識はその通りだと思いますので、次のテーマに移りましょう。「日本は、このチャンスにどう立ち向かうべきなのか」ということです。これだけのいろいろなことが10年後には起こり得るとされる中で、このチャンスをつかむために、私たちは何をしなければならないのか。このテーマでご提案いただければと思います。小宮山先生、お願いします。
小宮山:今の日本の弱点をどうするかという話でいえば、二つのことが重要です。一つは、日本では大企業が強すぎることです。こういうところは、先ほどの防災ロボットをつくるにしても、リスクを取って思い切って前に進むことをあまりやらないのです。だから、若くてやる気のある人たちに、社外でベンチャーをつくらせてそこに出資するという形で、もっと思い切ったことをやっていけないだろうか。これが一つ目の提案です。
もう一つ注目したいのは、コンペです。DARPA(国防高等研究計画局)がロボットのコンテストをやったり、アマゾンもコンテストをやったりしています。そういう海外でのコンペに参加するのもいいのですが、私は日本で賞金が付いたコンペをたくさんやればいいと思っています。
一例として、北海道の上士幌町で2016年10月に行われたイベント(Japan Innovation Challenge 2016)があります。雪山で遭難した人がいるという前提で、マネキンを遭難した人に見立て、これを見つけると50万円がもらえるというものです。そこに、毛布や薬などの入った3キログラムのキットを届けると、500万円がもらえる。さらにそのマネキンを下ろしてこられたら(ずたずたになっては駄目ですよ)、2,000万円がもらえるというコンテストをやっています。2016年は10チームが参加して、2チームだけが見つけるところまでいきました。ドローンか何かで捜索したと思いますが、こういうイベントをいろいろな分野でもやればいいと思います。そうすると、日本が抱える、嫌というほどの課題に対する解決策も見えてくるでしょう。
実際、歴史上の大きなイノベーションは、結構賞金絡みで発見されたものが多いのです。例えば、リンドバーグが初めてアメリカからパリに飛行機で飛んだことも、もともとは賞金がありました。現代に換算すれば、たかだか1~2億円程度ではないかと思いますが、投資と考えれば非常に安いものです。失敗したら払わなければいいのですから。反対に、イノベーションが起きれば前に進めるわけです。決して、DARPAがやったりアマゾンがやったりするニーズだけではありません。日本には、本当にたくさん課題があるのだから、そういう課題を解決するコンペを続々とやることです。これと、大企業がベンチャーを切り出すという二つの策に、日本が前に進めない問題を解決する方法があるかと思います。もちろん他にもあるかもしれませんが、そのためのアイデアをいろいろ出すべきだと私は思います。
●AI研究者には外資金融並みの高給を与えよ
司会:日本の課題を解決するためのコンペを、どんどんやるべきだろうというご提案でした。では松尾先生、いかがですか?
松尾:私も、今の小宮山先生のお話とかなり近いのですが、結局必要なのは若い人、特に20代の人が、ディープラーニングの研究を一生懸命やり、それを製造業のための付加価値向上に生かせるような仕組みをつくるということです。一番簡単な方法は、やはり給料を上げることだと思っています。外資や金融系の企業と同じぐらいの給料を出せば、人材は相当な数が流入してくると思います。外資や金融系の企業と同じぐらいの給与水準で、しかも国のためにもなりますから、若い人から見たらとても魅力的な職になるでしょう。
他方で、そうした給与を払えない理由は、本当はないと思っています。付加価値向上という点から見れば、ディープラーニングの成果は相当大きなお金になります。ベンチャーを見ていると、ディープラーニングがきちんと使える人数×5億円ほどで、バリエーション(評価)がついています。したがって時価総額的にも、1人当たり5億円ぐらいの価値向上になっているはずです。先週の『ウォール・ストリート・ジャーナル』に出ていましたが、CMU(カーネギーメロン大学)の学長(Subra Suresh氏)も「A...