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ローマ皇帝ネロを「暴君」にした元老院貴族とキリスト教徒

ユリウス・クラウディウス朝~ローマ史講座Ⅵ(4)ネロ(中)

本村凌二
東京大学名誉教授
概要・テキスト
ローマ大火
ネロが暴君になっていく道筋は、元老院から始まったと早稲田大学国際教養学部特任教授の本村凌二氏は言う。派手な振る舞いによる財政のマイナスを貴族の追放や処刑による財産没収で補ったからである。しかし、もちろんそれだけでは済まない。民衆にも反感を募らせたネロの行為とは?(全6話中第5話)
時間:11:08
収録日:2017/08/07
追加日:2017/09/21
カテゴリー:
≪全文≫

●元老院貴族への加害と軽視が「暴君ネロ」の始まり


 暴君と言われる割に、民衆には人気が高かったネロ。では、誰が彼をそんな悪人にしたかというと、これは元老院貴族です。

 カリグラの段でも話しましたが、皇帝の振る舞いが派手であればあるほど、国家は財政難に陥ります。その財政再建のための常套手段として使われたのが、元老院貴族を追放したり処刑したりして、財産を没収することで、そのようなことがしばしば行われていました。

 また、そうした被害には遭わなくても、ローマの建前はあくまでも共和制国家です。皇帝に当たる人を「プリンケプス(第一人者)」として認めてはいるものの、必ずしも「レックス(キング、王)」とはしていないのです。あくまでもローマ市民の筆頭である第一人者として認められているのです。ですから、共和制国家の伝統を守り、元老院の意向を大事にすることが、当時の基本にはありました。

 にもかかわらず元老院貴族への弾圧を行い、彼らの意向を重視せずに民衆の喜ぶようなことばかりを続けていたために、貴族たちからネロへの反感が募っていったのです。


●悪貨鋳造でインフレ進行、民衆の反感が募る


 その後、財政難などはあったでしょうが、ネロ自身が軍隊をないがしろにすることはなかったと私は見ています。

 ローマ史を大きな流れで見ていくと、最初の皇帝であったアウグストゥスや五賢帝の時代(96~180年)に、元老院の意向が大事にされていたことは変わりません。ただ、皇帝権力の実質的な基盤はやはり軍隊にあります。そのことはネロもよく分かっていました。

 彼が元老院を大切にしなかったということは、つまり逆に軍隊に重きを置いていたということだと思われます。ただ、どういうわけか、ネロに対する元老院貴族の反感が軍隊に飛び火した面があり、軍隊の一部にはネロに対する反感を持つ向きが出てきます。とはいえ、軍隊全体が「反ネロ」の意識を持っていたわけではないと思います。

 そのような中、ネロのピンチは最初、「貨幣の品質低下」という国家財政上の出来事として現れました。財政難の折、元老院貴族の財産を没収したことはお話ししましたが、もう一つの策として、貨幣の改鋳を行ったのです。100の貨幣を集めてきて銀などの含有量を低くして改鋳し、120なり130なりにしていったということです。

 しかし、民衆はそこを見抜いてい...
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