●経験価値のスキル(技能)面を「見える化」する浅間プロジェクト
サービソロジーによるサービスイノベーション事例をシリーズでお話ししています。今回は、「経験価値共創と知識・スキルの蓄積」についてお話ししたいと思います。
まず「経験価値共創」についてですが、サービスの提供においては、知識だけでなくスキルも重要です。サービスのほとんどは知識をベースにした言葉や情報でなされますが、それと同時に、サービスに携わる人のちょっとした仕草や立ち居振る舞いが、あるいは理容・美容などではスキル(技能)そのものが、サービスになるからです。前回紹介した村井プロジェクトでは、「気づき」という知識の側面を取り上げましたが、もうひとつスキル(技能)という側面も同様に重要です。
それに対して、S3 FIRE(スフィア)の東京大学・浅間一教授のプロジェクト(浅間プロジェクト)は、「経験価値の見える化を用いた共創的技能eラーニングサービスの研究と実証」という名称で、サービスの知識サイドではなくスキルサイドを扱っている、貴重なプロジェクトです。
サービソロジーは、知識だけでなくスキル(技能)の可視化も対象としているわけですが、浅間プロジェクトでは介護分野や製造業の技術伝承、スポーツ指導などにおける技能教育において、指導者と学習者双方のスキル(技能)の「見える化」を行っており、その差分を効率的に小さくしていくプラットフォーム(「経験価値プラットフォーム」)を構築しています。
●「模範に近づける」技能教示のプロセスモデル
浅間プロジェクトでは、技能教育を考えるに際して、技能教示のプロセスモデルを開発しています。
技能教示(技能を教える)とはどういうことでしょうか。まずは、指導者がやってみせる(「提示」)。それに理屈をつけて理解させる(「理屈」)。それから学習者にやらせてみる(「実践」)。そして、指導者と学習者の間の比較をすることによって、違いを知らせる(「比較」)。
それだけではダメで、さらに深く違いを認識させる(「認識」)プロセスが重要。この認識が深まることによって、自発的に自分を正しいやり方に近づける(「矯正」)。こういう動きが起こり、それを繰り返す(「反芻」)。
それで、身に付いたかどうかを確認する(「評価」)。駄目であれば、また先ほどのサイクルを回していき、OKであれば、そのレベルを認定する(「認定」)。そして、コミュニティにおける交流を促進し(「交流の場」)、また新しいサイクルを回す。
以上のような技能教示のプロセスモデルを開発した上で、このモデル上のあらゆる側面に対して、可視化するためのツールを提示しているのが、浅間プロジェクトです。
●可視化ツールを駆使し、比較と対話により指導
技能を可視化するのに最も直裁な方法は、学習者と指導者をビデオで撮影することですが、浅間プロジェクトの可視化ツールはそれだけではありません。マイクロソフトの「キネクト」という技術もあります。その技術を使うと、スケルトン軸により骨格の動きまで検出できるので、指導者と学習者の体軸がどのように違うかを重ねて見せることにより、どこをどう変えればいいかが分かります。
ちなみにスライドの左側で説明しているのは「ボート漕ぎ」で、筋電計を使っています。どこで筋肉を収縮・弛緩させているかを明快に可視化するもので、どの瞬間に力を入れ、どの瞬間に抜けばいいのかということがはっきりと分かります。
スライドの右側は「ダーツ」の事例です。腕の振り方を面で示す可視化の方法です。上が指導者、下が新人(学習者)です。指導者は非常にきれいな扇形をしていて、肘(ひじ)の位置も変わりません。新人の場合はよく分からない形を示していて、肘の場所もどんどん移動しています。
このように、一目瞭然に可視化されるツールがたくさん用意されています。それらを用いた技能教育では、あらゆるデータは時間軸上で同期できるようになっており、ある瞬間に、学習者がどんな姿勢をしているかをビデオやキネクト画像で見たり、三次元画像で見直したりということを、同じ時間軸上で行っていけるような仕組みになっています。
そして、時間軸上のある瞬間では指導者の「こっちをこうする」といった指示がなされるので、それをどんどん書き込んでいく。学習者の方も「そうは言っても」というようなコメントバックをしていく。そうしたものを積み重ねていくことが非常に柔軟にできるシステムが開発されています。
システム上には個々の技能教育の結果が全てデータベース化されています。これにより、学習者は自分の過去の状態と現在の状態を、スケルトン画像や三次元画像などの非常に分かりやすい画像で見ることができ、他の学習者と自分を...