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価値共創が難しい介護分野では介護者の「気づき」に注目

サービソロジーと経営~サービスイノベーション(7)価値発信把握と学習度評価

村上輝康
産業戦略研究所 代表 
情報・テキスト
産業戦略研究所代表の村上輝康氏が、サービソロジーによるサービスイノベーションの価値発信把握及び学習度評価のステージについて、介護分野の事例を紹介、解説する。介護では利用者からの価値発信把握が難しいのだが、スフィアの慶應義塾大学の村井プロジェクトでは介護スタッフの気づきに着目して、価値発信把握、学習度評価を可能にした。その具体的な仕組みとは?(全9話中第7話)
≪全文≫

●スフィア18本のプロジェクトを「ニコニコ図」にマッピング


 サービソロジーによるサービスイノベーションの事例について、シリーズでお話をしていますが、今回は「価値発信の把握と学習度評価」というステージについてお話しします。

 順番からいうと、前回満足度評価の話をしましたので、今回は事前期待形成のところです。このチャートは、ニコニコ図の上に、S3 FIRE (スフィア)の18本のプロジェクトが、それぞれどういうところにイノベーションをもたらしたのか、ということでマッピングしてあります。見ていただくと分かるように、スフィアの18本のプロジェクトはニコニコ図全体に満遍なく配置されています。

 ところが、事前期待の部分は1本もありません。サービソロジーは新しい分野ですから、こういうこともあるということです。この事前期待の分野については、スフィアのマネジメントチームのメンバーである諏訪良武氏の著書『顧客はサービスを買っているー顧客満足の鍵をにぎる事前期待のマネジメント』(北城恪太郎監修、ダイヤモンド社)を参考にしていただければと思います。


●価値発信把握が難しい介護分野では2種類の気づきを体系化


 価値発信の把握ということですが、これまでに「提供者は利用者のどんなわずかな価値発信も読み取る努力をしなければいけない」ということを、申し上げました。これをやらないと、利用サイドの価値共創が供給サイドの価値共創につながらないからです。しかしながら、介護のように利用者サイドの価値発信がほとんどない場合には、どうやって価値発信の把握をするのか、というテーマが出てきます。これについてはスフィアの慶應義塾大学・村井純教授のプロジェクト「介護業務における情報活用基盤を用いた介護の質の評価に基づく新しい人財教育・評価サービスの検討・実用化」を取り上げたいと思います。

 介護の分野では、被介護者の介護度が高くなればなるほど、利用者サイドからの価値発信はかすかなものになっていきます。図にあるように、送り手である介護スタッフのかけているメガネがどんどん黒くなって、そのことが見えなくなっていくということです。

 では、どうやって価値発信を把握するかということなのですが、村井プロジェクトでは「介護スタッフが被介護者に対して、どのように状況把握をしているのか、どういう気づきを持っているのか」を見れば、価値発信に対する理解ができるのではないかという着想をしました。これは素晴らしい着想だと思います。そして、村井プロジェクトではこの着想により、介護の現場の行動観察を徹底的に行いました。

 介護の現場を見ていくと、介護スタッフの気づきには2種類あるということが分かってきました。アクティブ(能動的)な気づきとパッシブ(受動的)な気づきの2種類です。アクティブな気づきとは、入浴や車いすを押すというような介助や介入をするときに感じる気づきのことで、パッシブな気づきとは、それ以外の何もないときの表情やしぐさの変化、また仕事や楽しみ、遊びのときにどんなことをしているかということから得る受動的な気づきのことです。アクティブな気づきが12種類、パッシブな気づきが9種類、合計21種類の気づきから介護サービスの気づきは成り立っているのではないかということで体系化をしています。


●気づきを可視化する仕組みで価値発信把握を可能に


 そうしてから、村井プロジェクトではどの介護スタッフがどの被介護者に対し、21種類の気づきの中のどの項目について、どこでどういう評価をしたかということを5段階に分けて、スマホからどんどんと入力できる仕組みを開発しました。

 このグラフはある新人介護スタッフの入力記録を見たものですが、最初の半年くらいは日に10件~20件前後でずっと推移していたのですが、1年目の後半くらいから急激に立ち上がってきて、2年目には140件を超えるレベルにまでなっています。要するに、熟練していくことによって、気づきはどんどん豊かになっていくことが分かります。表の右側には21種類の気づきをカラーで分けてありますが、グラフの中を見ると気づきの多様性もどんどん高まっていることが分かります。

 このグラフは1人の介護スタッフの記録を見たものですが、次のグラフは介護スタッフ全員について見たものです。経験0年目は張り切るからかもしれませんが、少々異常値にはなっています。経験1年目、2年目から6年目、7年以上と、年数が増えるにつれて、確実に気づきの件数が増えていますし、実際に介護とか介入といった行動に関わるものよりも、行動以外の項目がどんどん増えていっています。これは熟練するに従って、単に車いすを押したり入浴を介助したりするだけではなく、被介護者のクオリティ・オブ・ライフがどのようになっているかというところ...
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