●オバマの「逆張り」をするトランプ政権の真意は?
先週に引き続き、ドナルド・トランプ米大統領の中東政策についてお話ししたいと思います。最初に、先日も申し上げたように、トランプ大統領が中東をどのような方向に持っていこうとしているのかという根本的な疑問があります。
彼の行動には、はっきりとした傾向があります。それは、全ての行動がバラク・オバマ前大統領の政策のリヴァーサル(逆、あべこべ)を示すことで、いわば前政権の「逆張り」をしているということかもしれません。
イラン核合意脱退は、オバマ大統領やアンゲラ・メルケル首相をはじめとするヨーロッパの首脳たちの目指してきた中東の緊張緩和への努力を否定するものでした。
また、イスラエルとパレスチナ両陣営への抑制は、オバマの遺産ともいうべきものでした。放置しておくと強硬な政策に走りかねないイスラエルに対して歯止めをかける。逆にパレスチナに関しては、イスラエルに対する攻撃(特にハマスによるもの)を抑制すべく、パレスチナ自治政府首班マフムード・アッバース氏に向けて要請し、圧力をかけていく。これらがアメリカの基本的なスタンスとなっていましたが、現在ではそうした抑制はなくなってしまったということです。
●トランプ大統領の頭にあるのは「再選」だけ?
オバマ大統領のスタンスからは、良きにつけ悪しきにつけ、中東で武力衝突が起きる可能性を、できる限りゼロに近づけたいという意思を見て取ることができました。しかし、現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相と100パーセント(あるいは1000パーセントとも言っています)合意しているトランプ大統領の姿勢からは、そうしたことがうかがえません。
アメリカとイスラエルの関係は、短期的には確かによくなりますが、イスラエルの立場に100パーセント以上コミットすることは、別の危険をもたらします。すなわちイスラエルにおいては国内における和平を推進しようとするユダヤ人の良識ある人々、パレスチナ人の中ではイスラエルとの共存を図ろうとする良識ある穏健派、これらの人々を苦しい立場に追い込むことになり、かつ中東の緊張を永続化することにつながり兼ねないということです。
したがって、トランプ大統領は中東の未来地図を十分に描くことがないまま、このような一方的なスタンスやコミットメントをしていることが危惧されるわけです。結局トランプ大統領の頭の中にあるのは、2018年秋に予定されているアメリカの中間選挙と、その次に予定されるアメリカの次期大統領選挙、すなわち自らの再選を目指した戦略的な思惑しかないといわれても致し方ないのではないかと思います。
オバマ大統領時代との断絶を図り、かつ民主党との違いをアピールすることは、すこぶる重要な手段の一つで、政治家であればあり得る選択です。しかし、問題は新しいスタンスのもたらす結果への予測です。すなわちイラン核合意を廃棄することで、何が得られるか。あるいはエルサレムへのイスラエルの首都移転をそのまま受け入れ、アメリカ大使館をエルサレム移転することによって、何がアメリカの国益として得られるか。こうしたことを十分に考えないと、複合危機はますます強まるというのが、私の懸念材料です。
●危機につながるアクションを好む両国と中東情勢
サウジアラビアもまた、こうしたイスラエルとアメリカの思惑を承知の上で、イランとの関係(「イランこそサウジアラビア最大の敵であり、ペルシャ湾岸における最大の不安定要因である」というパレスチナ自治国家との関係)を強調しそれを尊重するという選択よりも、むしろイスラエルとの関係を強化する新しい外交路線に転じたかのように見えます。こうしたサウジアラビアの動きも、私が併せて危惧するところです。
和平への実際のアクションを起こすことなく、現実の複合危機において、危機につながるアクションを起こしていく、あるいは、そういう大胆なアクションを刺激していくこと。これが現在のイスラエルとアメリカが、中東の現実政治において果たしている役割ではないかという点が危惧されます。かつまた、サウジアラビアがそこにすこぶる不安定な形で関与している。これらが、現在の中東情勢の一局面です。
もちろん、イランの方にもシリアの危機を増幅した最も重要な要素の一つとして責められるべき点はあります。アサド政権に対する「アラブの春」による民主化要求やシリアの安定化を損ない、アサド政権の永続化を図るために革命防衛隊を投入している。言うならば、シリアの不安定化を促進しているのが現イラン政権だということになります。
●トランプ外交は、将来のアメリカの国益を損なう?
以上のように、イランとの衝突を顧慮することなく、自らの手で中東をコントロール、あるいは中東における...