●Wikipediaの仕組みを使って成長したのはWikipediaだけ
前回述べたように、共創プラットフォームの研究を続けてきましたが、非常に難しい問題があります。それは、共創がどのように生まれるかが、なかなか分からないことです。
例えばWikipediaの例を取りますと、Wikipediaは非常に巨大で有名な存在になりましたが、これが2001年に誕生し、広まりかけた頃、多くの人がトライしました。わが社もWikipediaのような仕組みのものを作れば、多くのユーザーが参加して勝手に育ててくれたりする、と考えたところが多かったので、実はその頃Wikipediaのようなサイトがとても多く立ち上がりました。ですが、実際にはそれらはほぼ全て失敗しました。ですので、Wikipediaの仕組みを使って成長していまだに残っているのは、ほぼWikipediaだけだといえます。
なぜそんなことが起こるのでしょうか。Wikipediaという仕組みはとても単純なもので、システムに何か不思議があるわけではありません。しかし、その使い方やルールが他と違って何らかの独創的なものであり、だからWikipediaは成長していったに違いありません。では、なぜその条件の違いが生まれるのか。それが気になり、調べてみました。
●クリストファー・アレクザンダーの「パターンランゲージ」
これは『パターン、Wiki、XP』(江渡浩一郎著、技術評論社)という本ですが、ここではクリストファー・アレグザンダー氏のパターンランゲージという考え方に端を発し、ソフトウェア開発業界で生まれた、ある革新的な考え方がWikiに引き継がれていると考えています。それを、順に説明したいと思います。
クリストファー・アレグザンダー氏はとても変わった建築家です。何が変わっているかというと、建築家なのに建築家が要らなくなる手法を開発したことです。彼は、建築家ではなく、ユーザーが直接、自分で作りたい建築を設計すると考えました。そうすると、ユーザーが自分の作りたい建築を設計するから、建築家は要らなくなります。
なぜこのように考えたかというと、それは、どのような建築が望ましいかはユーザーが一番よく知っているはずであるという考え方によるものです。ですので、建築家が要らず、ユーザーが自分で...