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ニコニコ学会βの成功と共創型イノベーション

創造的な場を支える仕組みを研究する(5)成功の秘訣

江渡浩一郎
産業技術総合研究所 主任研究員/慶應義塾大学SFC 特別招聘教授
情報・テキスト
メディアアーティストで国立研究開発法人産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究員の江渡浩一郎氏は、大成功に終わったニコニコ学会βから、いかにそのような成功を生み出せるのか、という方法論に取り組むようになった。それは「共創型イノベーション」と呼ばれるものである。(全10話中第5話)
≪全文≫

●「共創型イノベーション」という取り組みが大成功


 前回お伝えしたようにニコニコ学会βの活動を続けてきましたが、その活動で得た知見をもとに今、「共創型イノベーション」と呼ばれる取り組みを行っています。

 そのことについて、簡単に説明します。ニコニコ学会βという形でカンファレンスを始めましたが、非常に多くの人が参加することができ、大成功でした。そのように成功した試みがあると、「その成功の秘訣は何か」「同じようにやるにはどうしたらいいか」という話が多く出てきます。そのことが、どうしてうまくいったのかを自分たちで見直すきっかけになり、それをもとにして、ニコニコ学会βの良さをどうすれば方法論にできるかを考えるようになりました。それが今、「共創型イノベーション」という言葉で表現しているところになっています。


●ニコニコ学会βが始まった発端とは


 では、もともとニコニコ学会βが始まったのはどのようなことが発端となったのか、お話しします。

 簡単にいいますと、ニコニコ動画を運営しているドワンゴさんとのつながりが非常に強かったことはあると思います。つまり、ニコニコ学会の背景にはニコニコ動画の考え方があり、ニコニコ動画ではユーザーが動画を作って投稿する場をずっと続けてきました。しかし、会社として、科学技術への取り組みという点に関してはまだ始めていませんでした。

 一方、われわれは科学者なので、科学者や研究者のつながりがあります。そこで、両者をうまくつなげることでお互いが持っている良さを束ね合わせるような活動として、ニコニコ学会βを作ることができるのではないかと提案し、その運営などは全て研究者側がやることによって、企業色を出すことなく、さまざまな人が参加できる場にしました。そして、メディアとしての機能、つまり放送の場やステージといったものを提供してもらい、お互いのリソースを提供することによってニコニコ学会βを作っていったのです。


●学会を作るときに考えていたのはイノベーションの対象とすること


 ニコニコ学会を作るときに考えていたことは、学会をイノベーションの対象とするということです。もともとニコニコ動画と初音ミクという、非常に流行した2つのプラットフォームがあり、それに影響を受けてニコニコ学会βを考えています。つまり、初音ミクやニコニコ動画のように愛されるプラットフォームとして学会を作るにはどうしたらいいか、もしそれを考えたかったら、徹底してニコニコ動画や初音ミクをまねすればいいじゃないか、と考えたのです。ですので、その方法論をできるだけ取り入れることによってニコニコ学会のニコニコ学会βらしいところを作っていきました。

 分かりやすくいうと、名前です。ユーザー参加型をキーワードとするならば、そのキーワードを取り入れた学会の名前にすればいいのではという話もありました。ですので、ニコニコ学会という名前が最初から多くの人の賛同を得たわけではなかったのですが、最初は私がある程度押し切る形で名前を決定して、始めました。その時に思ったのは、引っ掛かりがある言葉、すんなり入ってこない言葉の方がいいということです。そこで、少し不思議に思ったり、なぜこの言葉を選んだのかと疑問に感じたりするものをあえて選ぼうと思い、せっかくニコニコ動画の会社とコラボレーションするのならニコニコ学会という名前をそのまま持ってこようということで、「ニコニコ学会β」という名前にしました。

 他にもさまざまなブランディングがあります。ニコニコ学会はロゴがとてもかわいいのですが、第1回が始まる前からそのロゴを使い続けています。そこは、見た目のところ、表に出るところをしっかりとデザインとして作り込むことによって、人気が出るような仕組みということを考えて作っているということです。


●「共創型イノベーション」が影響を受けた2つの考え方


 これまで、「ニコニコ学会で野性の研究者から出てくる新しい考え方を重視する」と説明してきたのですが、それを方法論として育てて抽出したのが「共創型イノベーション」です。それを考えるに当たって、2つの大きな考え方に影響を受けています。

 一つがユーザー・イノベーションで、もう一つがインクルーシブデザインです。

 ユーザー・イノベーションは非常にシンプルな考え方で、ユーザーがイノベーションを起こすことも時にはあるという考え方です。私が説明としてよく使うのは、マウンテンバイクです。マウンテンバイクは今では当たり前の存在になっていますが、昔はそうではありませんでした。

 それがどういう経緯で誕生したかというと、1970年代にカリフォルニアの西海岸でさまざまな人たちが、自分で山を乗り回すために使う自転車を作って...
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