●5年間限定で行った「ニコニコ学会β」の活動
ということで、共創に関する理論をずっと考え続けてきまして、『パターン、Wiki、XP~時を超えた創造の原則~』(技術評論社)という本を2009年に出版しました。その後、2011年から「ニコニコ学会β」という活動を開始します。
「ユーザー参加型研究の場」と書いてありますが、ニコニコ学会のニコニコはまさしくニコニコ動画のニコニコで、そのニコニコ動画を運営しているドワンゴさんとコラボレーションし、ニコニコ動画で研究を発表している面白い研究をしている人たち(「野生の研究者」とわれわれは呼んでいますが)とプロの研究者が参加してお互いに情報交換ができる場があるといいだろうと考え、ニコニコ学会βという団体を立ち上げました。設立当初から「5年間限定の取り組みとする」と宣言して2011年から活動を開始し、2016年に活動を終了しています。
そのニコニコ学会βが具体的にどのようなことをやってきたかというと、主に年に2回シンポジウムを行ってきました。それぞれ非常に大規模なもので、数万人から10万人の視聴者を集めて生放送しました。それ以外にも、研究会を開催したり、サマーキャンプを実施したり、また本を出版したりといった活動を続けてきました。
●「ニコファーレ」という生放送に最適化された空間で学会をやりたい
これは「ニコファーレ」という場所の写真ですが、六本木にあり、ドワンゴさんが持っている非常に変わったライブハウスです。何が変わっているかというと、壁が全部LEDディスプレイなのです。登壇者の裏側にディスプレイがあってそれが見えるというのは当たり前ですが、登壇者の裏側だけではなく、横の壁、観客席の奥にある裏側、天井も全てLEDディスプレイになっており、そこに画像や動画を投影すると非常に没入感のある、そして包まれている感覚が味わえる空間になるのです。
また、この場所はニコニコ生放送に最適化された空間になっています。ここでニコニコ生放送をしながらライブを行い、ネットの向こう側の何万人もの視聴者がコメントを打つと、そのコメントが壁を流れるのです。ですので、講演会場には100数人ほどしか入れないのですが、例えばネットの向こう側で10万人ほどが見ているとすると、いろいろな反応がコメント経由で返ってくるということで、壇上にいる人にもとてもリアルに何十万人の前で発表している感じが味わえる空間になっているのです。
われわれはこの場所を使って学会をやりたいと考えて、ドワンゴさんにお願いして使わせてもらいました。そうして、ニコニコ学会βという団体を立ち上げたというのが経緯です。
●「ニコニコ超会議」では、研究発表に触れてその面白さを知ることができる
もう一つは「ニコニコ超会議」という場所です。こちらは、幕張メッセという場所を貸し切りにして約10万人が日本中から集まってくるイベントで、先述したドワンゴさんが年に1回行っています。
基本的にニコニコ動画を地上に再現するというコンセプトで、ニコニコ動画になりそうなものは全部ここに集めるということになっています。もちろん歌ってみた、踊ってみたといったものもありますが、それ以外にも料理を作ってみたり、動物がいたり、アルパカがいたり、自民党があったり、米軍があったり、自衛隊があったり、それから民間のブースがあったり、車があったり、文学があったり、フリーマーケットがあったりと、さまざまなジャンルのものがここに集まっていて、それぞれがブースに仕切られ、ブース単位でさまざまな物事が行われています。例えば、文フリ(文学のフリーマーケット)の場合、文学を自分たちで売るブースが並んでいて、そこで自分の文学を売ったり、自分のCDを売ったりします。
また、あるブースでは、100人ほどが集まってそこで一斉に踊ったりしますし、他のブースでは、皆でカラオケを歌ったりします。
そのように、場所によって全然違うことをやっているのです。その中の一ブースとして、われわれは2012年からニコニコ学会βというブースを持って、そのブースで研究発表活動を行ってきました。
ブースの写真はこのような感じです。壇上に4人がいますが、彼らは昆虫の研究者です。昆虫研究の面白さをこの4人の研究者が順次伝えるというセッションで、椅子は真ん中辺りにあり、60人ほど座れるのですが、その周りを大勢の人が取り囲んで数百人が立ちながら見ているという状態になっています。
このように、普通なら研究発表を見に行かない人でも、「面白そうだからふらっと立ち寄ってつい見てしまった」と、ここに集...