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ダイバーシティとブレークスルーには相関がある

創造的な場を支える仕組みを研究する(6)共創と協業

江渡浩一郎
産業技術総合研究所 主任研究員/慶應義塾大学SFC 特別招聘教授
情報・テキスト
多様性のあるチームが、各々の方法で一つの大きな目標に取り組んだ際に、ブレークスルーは生まれる。メディアアーティストで国立研究開発法人産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究員の江渡浩一郎氏が、「七人の侍」に例えて、共創がイノベーションを生む仕組みを解説する。(全10話中第6話)
≪全文≫

●ダイバーシティとブレークスルーの創出には相関がある


 前回お伝えしたように、「共創」という考え方を重視していますが、その共創の中でさまざまな人を交えて仕事をすることについて説明します。

 ダイバーシティとブレークスルーの創出に相関があるという話ですが、まずスライドの図の見方をご説明します。左側に点がありますが、これはある商品(この場合は特許)によって得られた利益とそのダイバーシティの相関関係を表しています。左側に点があるのはダイバーシティが少ないということです。例えば、エンジニアだけが集まって作ったチームがある商品(つまり特許)を生み出して、それが利益を出した、つまり手堅く成功する、あるいはそこそこ成功するということです。

 ところが、ダイバーシティが高くなる、例えば、あるチームの中にいろいろな人たちが含まれるとメンバーが多様化し、そこで商品を作る場合、得られる結果の平均値は下がります。つまり、失敗する可能性が高まるということです。よって、多様性の高いチームの場合、平均を取ると得られる利益率は下がります。

 ただ、このグラフが面白いのは、右側に「ブレークスルー」と呼ばれる、思ってもみなかったような大成功があることです。それは、ダイバーシティが高いチームからしか生まれていないということです。逆に、ダイバーシティの少ないチームからは、手堅い成功は生まれてくるけれども爆発的な成功はまず生まれてこない、あるいはほぼ生まれてこないということが分かります。

 しかし、ダイバーシティの高いチームの場合、平均値だけで見ると得られる利益率が下がる、つまり失敗する可能性が高まりますが、思ってもみなかったような大成功がある。つまり、ブレークスルーはそこからしか出てこないということです。ですので、ここからいえるのは、成功するための方法論としてダイバーシティを考えると良くないことも起こるが、普通の方法では絶対生まれないようなブレークスルーを生み出したいときには、平均値は下がってもいいからダイバーシティを高める手法を取り入れるということです。

 よく共創によって生まれる手法を説明するための事例があります。Facebookに「いいね!」ボタンが付いていますが、この「いいね!」ボタンはFacebookの社内ハッカソンから生まれたアイデアです。ハッカソンとは、1泊2日でエンジニアが集まり、2日間の間に自分のアイデアを出し、それを形にして2日目の夕方に成果として作ったものを発表するイベントのことですが、「社内ハッカソン」という名前で社内のエンジニアが集まるハッカソンを毎年行っているらしいのです。そこからFacebookを「こうするといいよね」というアイデアがどんどん生まれて、その中の一つが「いいね!」ボタンだったのです。

 「いいね!」ボタンはさらに発展を遂げ、今ではFacebookの顔の役割を果たしていますが、それも特定の社員がハッカソンで考えたアイデアが成長したものなのです。ですので、そのような大きな成功を生み出すためには、共創の考え方を取り入れるのがいいと思います。


●目標が曖昧で多様性のある共創は、協業とは異なる


 もう一つ、「共創」という言葉は今まで説明をあまりせずに使ってきましたが、よく聞かれるのが「共創と協業はどう違うのか」という話です。

 「共創をこれから進めるのが大事である」と話すと、「でも協業だったら昔から続けてやってきたのではないですか」と言われます。A社とB社がコラボレーションして、ある事業に取り組み、成功したり失敗したりすることは当たり前のことでした。そこで、その二つがどう違うかを考えるとき、私の理解では、協業はその協業によってある事業に取り組んで得られる成果が想定されており、その成果の取り分をあらかじめ決めてから開始するということです。よって、大体このくらいの成功をするだろうということが分かり、その場合、A社とB社はそのような方法でその利益の分け前を考える、ということをあらかじめ決めることができるのであれば、それは協業です。

 しかし、共創の場合は、それが成り立ちません。成り立たないというのは、そもそも本当に利益が上がるのかどうか分からないということです。かつ、利益が上がったとしても、それをどう分配していいのかも分からないけれども、ぜひ取り組むべきということです。

 そのような曖昧模糊とはしているが絶対に達成したい目標を、ここでは「共通善」と呼んでいますが、共通の大きな目標があり、その共通善の達成のために異質な人たちが集まって行うのが共創であると思います。

 ここでは「七人の侍」を事例として出しますが、「七人の侍」に出てくる7人の共通点は盗賊から村を守りたい、それだけです。しかし、彼らはそれぞ...
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