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つくばにおけるイノベーションの加速

創造的な場を支える仕組みを研究する(8)つくばの挑戦

江渡浩一郎
国立研究開発法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門 主任研究員
情報・テキスト
2016年つくば市長選の結果、新市長が誕生し、つくばにおいてイノベーションを加速させるための政策が進められている。メディアアーティストで国立研究開発法人産業技術総合研究所知能システム研究部門主任研究員の江渡浩一郎氏は、インキュベーション施設をつくば市に作るべく議論を重ねている。(全10話中第8話)
≪全文≫
●つくばにおけるイノベーションの加速

 2016年に開催した「つくば横の会」は非常に面白かったのですが、その頃からつくばの情勢がだんだんと変わっていきました。2016年10月につくば市長選があり、非常に長く続いた前市長に代わって、五十嵐立青市長が誕生しました。

 五十嵐市長には、「つくばにおけるイノベーションを加速していきたい」という意向がありました。つくばの情勢が非常に変わりつつあり、今もその変化が加速しつつある時代です。文部科学省研究交流センターという、つくばにある研究所間の横の連携を作る企画を立てている機関のセンター長から、つくば横の会の人たちに「研究所間の横の連携を作る手法について考えてほしい」という依頼がありました。正確にいうと、私に考えてほしいという依頼だったのですが、「つくば横の会として何ができるか、議論したい」と答えました。そこで、まずは皆で集まって「このような問題点があって、このような解決策がある」ということを考える場を作りました。

 私自身の役割としては、「このような解決策がある」とアイデアを出すことはもちろん大事ですが、それよりも、面白そうなことを考えている人、解決策を思い付きそうな人を集めてきて、そういった人たちが円滑に議論する場を設計することだと思っています。ですから、そこで、「こういう問題点だったら、この人は前向きに議論してくれるはずだ」という人を集めて議論する場を設計することをずっと行ってきました。


●インキュベーション施設が求められている

 その中で、つくばにおいてはインキュベーション施設が求められているのではないかと考えました。インキュベーション施設とは、要するにオフィススペースのことです。通常のオフィススペースとしてお金を払って借りるだけではなく、コワーキングスペースのようにオープンスペースでいろいろな人が同時に働ける場にしたり、またお金が不足しているベンチャー企業がスタートアップの条件によっては比較的安価に借りることで、非常に面白い人が集まりやすい条件を備えた施設を意図的に作ったりする。それらをインキュベーション施設と呼んでいますが、そういったものがつくばにはなかなかありません。

 実際にはあるのですが、駅から歩ける範囲にはありません。しかし、駅から歩ける範囲かどうかがすごく大事です。また、条件は、従来からの科学技術をスタートアップにすることに限られていて、IT系企業のようにさまざまな人が集まってVCからお金を受け取って成長させていくという、はやりのスタートアップ的な活動ができる場所がつくばにはありませんでした。

 そこで、つくばにスタートアップを作るためにインキュベーション施設をどう作るかについて議論するため、まず「DMM.make AKIBA」という有名なインキュベーション施設を設計した小笠原治氏に来ていただき、そのような面白い場所をつくばに作るには「こういう条件が必要」といったアイデア出しを行いました。


●インキュベーション施設に最も求められるのは面白い人



 議論していて非常に面白かったのは、私が小笠原氏に「そのような場所を設計して使ってもらうために一番重要なことは何か」という質問をしたところ、「面白い人がいること」と答えたことです。

 結局、どんな場を作るのか、そこにどんなルールやデザインや設備が必要なのか、ということよりも、その場をつなげる役割をする人が一番重要で、何よりも「そのような人がいないとうまくいかない」とおっしゃっていました。つまり、そこには中心人物となる人がいて、その人がそこに来るいろいろな人たち、そしてそこで起こるさまざまなことをつないでいく、そうした役割の人なのです。私は「それが一番難しいけれども、おっしゃる通りだ」と思いながら、話を聞いていました。



 そのような議論を通じて分かってきた課題を解決していくべきだと思いつつも、だんだん見えてきたのは、そういった場所を作ったりルールを作ったりすることよりも、まずこのような大きな話に興味を持って議論をする人自体がいないということです。

 ですので、そのようなイノベーションや新しいものを考えることの好きな人が集まる場を設計しないと、そもそも点の議論しかできません。点の議論をつなげて線から面へと広げていかないといけないのですが、「この場所にはこのようなものが大事」「この場所にはこのような条件を備えるべき」という点の設計の議論がどんどんと広がってしまっていました。ですが、継続した議論をするためにはやはりコミュニティーが必要で、それをどう作っていくのかが問題点として見えてきました。


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