●メディア報道の“空白”だった東芝・2兆円事業の成り立ち
こんにちは。NHKエデュケーショナルの佐々木健一と申します。今回は、私が作った番組をもとに、『世界を変えた「フラッシュメモリ」 日本発の革新的デバイスはいかにして生まれたのか?』というテーマについて、5回にわたってお話します。
まず、このテーマについて話すことになった経緯を軽く説明します。私は『ブレイブ 勇敢なる者』という特番シリーズを企画・制作しており、2017年11月に、その第3弾として「硬骨エンジニア」という番組を作りました。これは、東芝フラッシュメモリに関する番組だったのですが、放送後、多くの反響がありました。
この番組制作のために取材を始めたのは、東芝の経営問題に関するメディア報道がすごく多い時期でした。例えば、『週刊東洋経済』2017.4.22号や『週刊ダイヤモンド』2017.6.3号などのビジネス雑誌のタイトルは『東芝が消える日』『三流の東芝 一流の半導体』等で、原子力事業に始まり、東芝の経営問題が非常にクローズアップされています。
その中で、半導体事業が売却されるといった話が起こっていました。東芝の半導体事業の資産価値は2兆円ほどで、これを売ることによって東芝は何とか会社として保たれる、という話がありました。
当時、東芝の経営問題に関してはしきりに報道されていましたが、その資産価値2兆円はどのようにして生まれたのか、言い換えると、その価値を生んでいる東芝の「フラッシュメモリ」というものがどのように生まれたのかについては、意外にも“空白”になっていました。つまり、ほとんどのメディアがそのことに触れていなかったのです。
経営問題ばかりに目を向け、そもそもどうしてこれほど大きな価値が生まれたのかということには、どこのメディアも注目していない。私はそのことが気になり、この件について調べ始めたのです。
調べていく中で、面白い話がたくさん分かっていきました。まず、「フラッシュメモリ」といわれても分からない方がほとんどだと思いますので、それについて説明したいと思います。
●フラッシュメモリは人類史上、最も重要な技術革新の一つ
フラッシュメモリは、「人類史上、最も重要な技術革新の一つ」と言えると思います。「人類史上」というと、「随分、大きく出たな」と思われるかもしれません。しかし、フラッシュメモリはそのくらい、ものすごいデバイスなのです。
そもそも、どういうものかよく知らない方もいらっしゃると思うのですが、大体、手に乗せるとスライドにあるような感じです。プラスチックのケースなどに入っており、その中に半導体素子が入っています。ものすごく薄く何層にも積み上げられています。
アップにすると、スライドにあるような形です。
フラッシュメモリは簡単にいえば、半導体記憶媒体です。温度変化等、性質の変化を利用してデータを保存します。ます、半導体には、「小さい」「壊れにくい」「軽い」という特徴があります。
さらに記憶媒体としても、フラッシュメモリには他と違う、すごく特殊な性質があります。それは、「電源を切ってもデータが残る」ということ。「不揮発性メモリ」といわれていますが、フラッシュメモリはこのジャンルで世界中を席巻しているメモリです。
こうした特徴を持っているので、結果的に今、あらゆる電化製品に使われているのです。
●フラッシュメモリは、あらゆる電化製品に使われている
具体的に、どんなものに使われているのか少し見ていきたいと思います。まず、今や誰もが持っているスマートフォンにはフラッシュメモリが入っています。電源が切れてもデータが残っているものに使われるので、USBやSDカードもそうです。
さらに、パソコンで最近よく聞く「SSD」というものにもフラッシュメモリが使われています。ハードディスクから置き換わり、SSDが使われるようになったことで、動作が軽くなってきたイメージがあると思います。これもフラッシュメモリなのです。
また、携帯音楽プレーヤーやデジカメ、ゲームにも使われています。さらにはテレビにも使われています。テレビのリモコンに使われています。それまで見ていたチャンネルを覚えていて、電源がOFFになっても、回復した際に同じチャンネルが映ります。また、エアコンの温度設定をして一旦、電源が消えてもそれまでの温度設定を覚えているのも、フラッシュメモリのおかげです。
その他にも、白物家電では冷蔵...