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読書は社会人としての間口を広げることにもつながる

読書とは何か(6)座右の書から得る人生の喜び

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
今、われわれが当たり前のように使っている数々の言葉には、明治以降、日本の知識人が大変な苦労をして欧米語から翻訳したものが少なくない。私たちが、多大なる知の財産を書物を通して継承していることを再認識し、座右の書を手にする喜びについて山内昌之氏が語る。(全6話中第6話目)
時間:11:20
収録日:2014/05/22
追加日:2014/08/14
タグ:
≪全文≫

●先人たちの知の結晶ともいえる翻訳語の数々

      
 日本人は、和漢洋三つの世界の知恵を比較したり消化することによって、書物を通して多くのバランスをとってきたのです。

 最初、ヨーロッパの本を読んで、「これは何なのだろう?」と、分からないことがたくさんあるわけです。例えば、あの有名な江戸時代の『解体新書』の翻訳にしても、原書の『ターヘル・アナトミア』を読んでいて、江戸時代の蘭学者たちには意味が分からない。「顔にありて高きところ」というような説明があると、辞書を読んで、さあ、何だろう? と考える。しかし、よく分からない。「顔にある高いところ」という説明がしてあるから、これは鼻だろう。鼻というのはこういうオランダ語なのか、というようなことを一つ一つ、先人たちは乗り越えていかなければいけなかったのです。

 英語の「ニューズ」という言葉が出たとき、われわれは今「ニュース」とそのまま言っていますが、この「ニューズ」という言葉を「新聞」や「報道」と訳す。これには大変な苦労がいったわけです。しかし、中村敬宇が訳した「新聞」という言葉は、うまいものだと改めて思います。ニューズ、それを新たに聞く。これが今の「新聞」という言葉の濫觴(らんしょう=起源)になったのです。

 「スピーチ」という言葉があります。今、「テーブルスピーチをしてください」とか「結婚式のスピーチ頼まれちゃってね」などという場合のスピーチです。これを、福沢諭吉が最初に「演説」と訳したのです。「演説」という言葉は日本語にはもともとはなかったのです。

 また、「フィロソフィー」とは何だろうとも考えたわけで、これは、西周が「哲学」と訳しました。

 このように、欧米語から日本語に入った言葉で、私たちが明治以降に訳した言葉を使わなくては、現代社会での日本語は成り立たない言葉があります。「社会」であるとか、「資本」、それから「芸術」、「職業」、「生産」、そして「思想」、こうした言葉は、いずれも欧米の言葉から日本語に訳されて、しかもこれらの言葉が日本から、われわれが漢字を輸入した本国である中国に、逆に輸出されていったということです。

 「歴史問題」とよく言われますが、この「歴史」という言葉、「歴史(リシ)」という言葉ももともと中国にはない言葉でして、日本から「歴史」という言葉が輸出されて中国に入って、「歴史...
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