●世界は少しずつブロック経済化している
―― 明らかに2010年代は、世界中がものすごく変わっていく時代でした。
船橋 歴史は同じようには繰り返さないですし、今から見ても「あの時(第二次世界対戦前)と今はこう似ている、当時はああだった」と読み込みすぎてもいけないんだけれど、やっぱり、過去の歴史と比較して、今の状況には怖さを感じます。
例えば、昨今の中国に対するアメリカの関税引き上げは、積もり積もってきました。第4次とか。現在では、すでに関税は平均で21パーセントになっているのです。これは、1930年代のアメリカの関税の平均の関税率とほぼ同じか、あるいはこれを上回るぐらいになってきました。1930年代の初め頃というと、「Smoot-Hawley Tariff Act」の時代です。
これは1000以上のものについて関税をかけるものでした。それによって、アメリカ、そして世界が一気に保護主義に行くじゃないですか。イギリスも、連邦だけの特権関税システムにしました。そこで、日本などははじかれていくわけです。
―― ブロック経済にはじかれだした、と。
船橋 世界はブロック経済に入っていくのです。現在は、それとほぼ同じようなところまで、関税が高くなっているということです。あっという間ですね、これも。
―― ほんとにそうですね。
船橋 あっという間です。
―― 決めてから、ほんと早いですね。
船橋 早い。
●デジタルによるグローバルサプライチェーンが急激に増殖
船橋 もう1つ注目すべきことがあります。あの時代には、ラジオが決定的に、今でいう一種のポピュリズムをあおりました。また、ラジオの存在によって、何10万というコミュニティが一気にできてしまったといわれています。現在では、その代わりになるものがデジタルでありネットであり、特にソーシャルネットワークです。デジタルの部分において、ネットワーク効果も含めたグローバルサプライチェーンが、ものすごい勢いで生まれてきているということです。
―― 確かにそうですね。ラジオとは比較にならないくらいの勢いです。
船橋 比較にならないほど、ですね。いろいろなデータを使ってこういうものを操作して、内面まで指導し、誘導します。朝から晩まで誰かを見て、また見られているという状況です。すでにこれらが全て、永遠に消えないような形でデータ化されていくという時代に一気に突入しています。さらに、これは、政治的にあるいは外交的な意味で、情報操作のためにデータが利用されています。ロシアは2016年の大統領選挙の時にやろうとして、中国は台湾の選挙でやっていますよね。
―― 同じことですね。
●サイバー空間での戦争は、経済制裁に現れている
船橋 こういう時代に入ってきたということじゃないですか。
―― すごく恐ろしい時代ですね。
船橋 恐ろしいですね。中国の場合は、やはり経済が一番のパワーの源泉です。軍事ではまだアメリカにかないません。軍事衝突はしたくない。しかし経済では、やれるものを今やってしまおうというわけです。特にサイバー空間では、もう戦いは始まってしまったわけです。
同様にアメリカのほうも、軍事力による戦争は最終的に核を使うことになるので、絶対したくない。そこで経済のところで制裁をかけてというような外交が最近、非常に際立ってきていますね。何かというとすぐ「経済制裁だ」、と。ロシアに対しても、クリミアに侵入したら、「はい、経済制裁だ」、と。北朝鮮に対しても、「ミサイルを開発したら経済制裁だ」ということで、今度は重い関税をかけています。
●アメリカの持つ金融資産の情報が制裁のための武器に
船橋 アメリカの場合は、特に対イランがそうですが、SWIFT(国際銀行間通信協会)によるドル決済網から経済制裁国を排除するという手段も使っています。SWIFTは欧米の金融機関が1970年代からつくってきたもので、現在では200カ国の1万1000~1万2000の銀行や金融機関が加入しており、SWIFTを通じて年間60億もの決済のメッセージ・テキストが処理されています。こういうネットワーク効果は、ものすごいものなのです。しかも、ネットワーク効果があると同時に、これらは全て「見える化」しているので、監視できてしまうわけです。
―― 確かにそうですね。全部見えます。
船橋 全部見えるわけです。財務省あるいはニューヨーク連邦準備銀行のようなところからすれば、ドルは一種の監視アセットです。9・11後、テロリストの資金の流れを事前に把握して、テロリストがいつどのように動くかということを、Predictableな形で事前に対応するということを行っており、それからものすごくインテリジェンス化しています。ある意味では、それまでの純経済資産が監視資産になっており、つまり武器化したわけです。これをどんどん使っていま...