●日本はこれまで平和を維持しながら経済を成長させてきた
―― 最後にもう一つだけ。最近、デービッド・アトキンソンが、「日本の中小企業は360万社もあり、多すぎる」と言っています。吸収合併により、数を相当減らしていかない限り、生産性は高まらないし、少子化も止まらないし、一人あたりのGDPが下がってくことも止まらない、という感じの議論をしているのです。これについて、先生はどんな感じのイメージを持っていますか。
船橋 アトキンソンさんの本を読んでいないので、ちょっと申し訳ないんだけれども、まず人口減少は問題でしょう。今までの日本の歴史のなかで、人口は明治以降ここまでずっと増えてきました。約3000万から約1億2000万まで。戦後もまた、そういう形で人口ボーナス期がありました。われわれ日本人は一生懸命働いて、汗かいて、いろいろ学んで、それで戦後ここまで来ました。もちろんそれは大きいけれども、同時に戦争をしないように注意深くやってきました。アメリカの同盟と憲法の合わせ技、組み合わせで、平和を維持してきたのです。
●戦後日本の躍進には国際秩序がプラスに働いていた
船橋 そうして、これだけの経済を持ったわけですが、そこには同時に2つ、とても重要なことがあると思うんです。
1つは、日本がそういう軌跡をたどることに関して、国際環境や国際秩序は、非常にプラスに働いていた、要するに恵まれていたということを忘れちゃいけないということです。
どの国も、国が非常に成長し発展するときには、国際システムや国際秩序との相性が非常に良く、それがプラスに働いています。国の成長を後押ししてくれるような国際秩序かどうかということが、ものすごく大きいのです。
●人口減少と構成比の大幅変化は、成長を拒む
船橋 もう1つは人口だと思います。団塊の世代もそうですが、人口ボーナスがあり、人口が増えて消費が増えるという状況が循環したことで、これまで経済が発展してきました。それが現在は全て逆になっています。1995年から生産年齢人口が減少に転じて、2008年には絶対人口が頭打ちになっています。これも今、加速化しているわけでしょう。私どもはシンクタンクとも共同研究をやりましたけれども、2100年までにこのまま何にもしなければ、人口は5000万人になってしまうということです。
「いや、明治の時代は人口が3000万人だったんだから、良いじゃないですか」と言う人もいるかもしれないけれど、その時とは人口の構成比が違います。高齢者が圧倒的に多数の人口構成で5000万人というのは、世代的な不公正という観点もあり、もたなくなりますし、それでは成長しません。
●資本主義の成長がないと、嫉妬の政治になっていく
船橋 だから今後、エネルギーにしても何にしても、かつてのような成長はないというのは、その通りだと思います。しかし、近代および現代の民主主義というのは、やはり資本主義の成長があってのものです。資本主義が民主主義というものを育ててきたというところが、とても大きいと思うんです。それがないと、ますます嫉妬の政治になっていくということです。
―― 成長がないと、嫉妬の政治になっていくんですね。
船橋 誰かのものを奪って、それをどこかへやる、というような再配分の方法など、いろいろ言い出している人もいますが、皆さまざまな理論やイデオロギーでそれぞれの考えを正当化しますよ。しかし、そこでの陣取り合戦や分捕り合戦というのは、必ず社会的なコストや高いストレスを生みます。そういうなかで、民主主義をマネージし、さらに運用するのが、ますます難しい時代になっていくと思います。
―― やはり縮小均衡しちゃいけないんですよね。
船橋 はい。縮小均衡という言葉がありますけど、そんな簡単に均衡してくれない、縮小というのは。
グローバル化で、捕捉できない富や回遊する人々がどんどんと巨大な固まりになっていきます。そうなってきたとき、やはり嫉妬の政治の問題が出てくるんじゃないんですかね。それが、ますます排外主義を生んだり、非寛容の政治を生むことになります。
―― 嫉妬と非寛容、排外主義になるわけですね。
船橋 だから、やはり成長は本当に必要だと思います。
―― そうですね。絶対的に必要なものが成長で、それがあって初めて民主主義なんですね。
船橋 今まで民主主義は空気みたいに維持されてきました。でも安全保障と同じで、民主主義も日々努力しないと、すでに丸ごと維持できないというところに来ているんじゃないですか、今は。
―― 確かにその通りですね。先生、本当にありがとうございました。
船橋 ありがとうございました。