●世界各国の5Gの取り組み
5G実現に向けた、日米中韓欧の取り組み状況について、少し紹介します。
実はここでも、日本は一番最後のサービスインを予定しています。これについてはいろいろな議論があるのですが、後でお話しする通り、日本では、慎重に準備を進めているためです。特に一番インパクトの大きい東京オリンピック・パラリンピック競技大会の前に、商用化を完了することを目標として、政策が進められています。
前回、周波数のお話をしましたが、米国・中国・韓国・欧州では、非常に似通った帯域を含んだ周波数を利用することが予定されています。これは、世界各国で周波数をそろえることによって共通の端末を使うという目的があるからです。しかし、よく見ると、各国で少しずつ周波数は違っていることが分かります。
●日本は2020年の導入に向け、慎重に検証を重ねている
また、サービスの開始時期でいうと、米国は2019年4月から本格展開が始まっています。最初は固定系といって、端末が移動しない、固定した場所でなされる通信が2018年10月から、一部の都市で進みました。その後、2019年4月には、スマホ向けのサービスを開始しています。
中国は、2019年度中から順次展開するということになっています。それに対して韓国は、実は非常に動きが速く、2018年12月にプレサービスの運用をしています。2019年4月に、SK Telecomm、KT、LGU+の3社によって、スマホを含めた本格展開がなされました。これを合算すると、2019年6月現在で、100万人が5Gを使っていることになります。欧州は、国によってだいぶ違うのですが、スイスでは2019年4月から、英国では2019年5月、イタリア、スペインでは2019年6月から順次展開ということになっています。
こうした横並びで見ると、日本は一番最後なのですが、これには実は理由があります。日本ではこれまで、5Gがどのように使われるのか、あるいはどのような使い方があるのか、つまりアプリケーションは何なのかということを、実証実験によって慎重に検討してきました。本格展開が最後なのは、こうした検討の結果であるということです。
●ホロポーテーションという新しい技術
先ほど、eMBB、URLLC、mMTCという3つの代表的な通信クラスを紹介しました。これらが実際にはどのような性質があり、どのように使われるのかは、実証実験をいくつか繰り返していくことで分かります。
そこで1つ、面白いアプリケーションを紹介します。これは、「ホロポーテーション」というアプリケーションです。ホロポーテーションという言葉を、皆さんはあまりお聞きになったことがないでしょう。これは、ICTを駆使したテレポーテーションの試みといえます。
この言葉は、2016年にマイクロソフトが提案した言葉なのですが、遠隔地にいる相手をカメラを使って360度の角度からキャプチャした映像を、通信によって、話者の環境に融合するというものです。いわゆるミックストリアリティー(MR)という技術を使って、生活空間に投影するという手法です。正確にいうと、テレポーテーションに似た環境を実現するというものです。実際にはその人はこの環境にいないのですが、遠隔地の人がすぐそばにいるかのような幻想を実現します。
これには、先ほどの通信クラスでいうと、大容量の通信と低遅延が必要です。つまり、お互いに会話をしながら、相手がここに存在するかのような幻想を与えなければいけませんので、大容量による非常に精細な映像を送る必要と、そこから反応が低遅延で伝わる必要があります。そのため、通信クラスとしては、URLLCとeMBBの両方が必須です。
当初はこの技術のために、1.5G(ギガ)bps程度が必要だと言われていました。しかし、マイクロソフトの技術によって、通信帯域が97パーセント削減され、大体30~50Gbpsの通信性能が必要とされています。これは、これまでのLTEなど、第4世代(4G)の携帯電話では実現が不可能でしたが、5Gでは実現ができるのではないかと言われています。
ただし、スライドの絵を見ていただくと分かるのですが、現在は「ポイントクラウド」という、点群で表した荒い映像になっています。さらにキメの細かい、臨場感たっぷりの映像を送るホロポーテーションを実現するためには、実は5Gでもまだ不十分なのではないかという議論もあります。
【参考動画1】
Mobile Holoportation
https://youtu.be/nTkFO2xNkIk
しかしいずれにせよ、上に写っている映像を送るというレベルであれば、5Gで十分、ホロポー...