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日本と海外で異なるセルロースナノファイバー研究開発事情

セルロースナノファイバーとは(4)世界の研究開発の動向

磯貝明
東京大学特別教授
情報・テキスト
日本ではさまざまな分野の企業が、セルロースナノファイバーに大きな期待を寄せ、その研究開発に投資を行っている。また、その実用化に際して生じる問題を乗り越えるため、経済産業省を中心とした国家機関のイニシアティヴにより、この10年で官民の連携が非常に緊密になってきている。一方、海外では、セルロースナノファイバーを扱う国家機関が設立され、大規模な予算が投入され、より進歩的な施策が取られている。しかし、残念ながら日本にはこうした拠点が存在しない。ここに日本の課題があるという。(全7話中第4話)
時間:11:27
収録日:2019/11/08
追加日:2019/12/18
≪全文≫

●多くの日本企業がセルロースナノファイバーに期待を寄せている


 次に、この点は海外の人がうらやましがる点なのですが、日本でどのような点がセルロースナノファイバーについて検討しているかという点についてお話しします。

 ほぼ全ての製紙会社、および旭化成や第一工業製薬、星光PMCのような化学メーカー、スギノマシンやモリマシナリーのような機械メーカー、さらに詳細は公開されていませんがダイセル、愛媛製紙、特種東海製紙、丸住製紙、ダンボールがメインのレンゴー、大阪ガス、服部商店、大村塗料、スターライト工業、マリンナノファイバー、フィラーバンク、枡幸産業など、多くの日本企業がまだ大きな市場ができていないセルロースナノファイバーに大きな期待をかけて、人とお金を投入して研究開発を進めています。一番大きな工場は右上にある日本製紙の石巻工場で、年産500トンのTEMPO酸化セルロースナノファイバーが生産されています。当研究室のものと同じようなものです。

 次のスライドに、化学構成成分や構造の違いに基づいて分類した表を載せています。何も処理していないものをナノファイバーにした場合には、元のセルロースがどこで採れて、どのような性質を持つものなのか、ということが大きく影響します。しかし、他の薬品を用いていないので、安全性は担保されます。おそらく口に入れても問題ないと思います。

 一方、下の方に挙げてある製紙用のパルプを出発点にした場合には、工業素材としての均一性が担保されます。したがって、(セルロースナノファイバーの特性に与える影響度を示す)赤いプラスが一つしかないものが多いのです。あとで紹介するTEMPO触媒酸化は、当研究室が発見し、日本製紙や第一工業製薬、海外でも利用が検討されています。リン酸エステル化は王子ホールディングス、亜リン酸エステル化は大王製紙、カルボキシメチル化のセルロースナノファイバーは日本製紙、エンド型セルラーゼ処理は森林総研、アルケニルコハク酸エステル化は星光PMC、硫酸エステル化は丸住製紙で用いられています。このように、表面に荷電を入れることで、多くのセルロースナノファイバー(CNF)が日本から提案されています。

 ただし、化学処理したものは、安全性を検討する上でかなり慎重な対応が必要となります。動物試験の結果で死亡してしまったという事例を用いて、「安全でない」とは簡単にいうことができます。しかし、「安全です」というためには、果たしてどの程度の量でどの程度の期間、摂取しても安全なのか、また結果的に寿命が伸びるのかどうかという検証が必要ですが、これには時間とお金がかかります。ゆえに、化学処理した後のCNFの利用ハードルは高いのです。唯一、ここに挙げた中でカルボキシメチル化という方法は、従来から用いられてきた反応で、アイスクリームや歯磨き粉に入っています。そのため、これは許容範囲であろうということで、すでに食品添加物として用いられているのが現状です。

 上のスライドで緑に囲っている部分は、表面にマイナス荷電を入れることでナノファイバーを生成しています。3ナノメートルで透明なものを作るには、現状では表面に荷電を入れるしかありません。この荷電の種類はカルボキシル基なのか、リン酸エステル基なのかということで、表に示しましたが、これだけの多様な荷電を入れたCNFが日本から提案されています。


●セルロースナノファイバー実用化に対する官民合同の取り組み


 それから、経済産業省が、CNFは期待されている材料ということで今後の動向に注目しました。最初は量も少なく、機械的に解繊しているのでエネルギー消費量が多いので高価ですが、徐々に量産の効果で値段が下がって、2030年には市場規模が1兆円程度になるのではないかという、少し楽観的な予測を立てました。現状ではいろいろと難しい部分もあるので、この予測の見直しが行われています。「NEDO」(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)がこの見直しを行い、より現実的な予測を立てることになっています。加えて、何がボトルネックになっているのか、課題も明らかにしようという動きも出てきています。

 そうした流れを受けて、日本では海外がうらやむオールジャパン体制のフォーラムが2014年にできました。経済産業省の支援によって、産業技術総合研究所(産総研)のコンソーシアムとしてナノセルロースフォーラムが設立されました。企業メンバー224をはじめとして、多くの多様なメンバーが加わり、オールジャパン体制でCNFの実用化のための研究開発を進め...
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