●軽薄な転換にならないために
ここまでお話ししたからあえて言っておくと、変えてはいけない点があるということです。変えてはいけない点を見失ったら、もう根無し草になって、とっても軽薄になりますよと。だから転換というのは重要なんだけど、軽薄に転換したら、もう最悪なんだと思います。
本当の転換で大事なのは、自分のアイデンティティがしっかりしていることです。己というものを忘れない。自分はこういうものだということを忘れない。要するにアイデンティティが重要だということです。
そこで今日のテーマです。われわれは本当にちゃんとした形で日本というものを知っているだろうか。心得ているだろうか。このように問い直すことが、今、非常に重要なんじゃないかと思うわけです。そういう意味で、今日は「日本的を探究する」という中の第1回目として、「日本の特性とは何か」ということをお話しようということです。
●理屈より感性で捉える
どのようにお話ししようか、ずいぶん悩んだんですけれども、これからの転換というのは理屈よりも感性という部分での転換というものがかなり重要なのです。ですから、制度とか方針とか、そういうものが先行しすぎた転換は非常に重要なものが削ぎ落とされてしまうということです。そういう意味では、明治の転換とずいぶん違うところがあって、感覚的な部分もそれなりにあるということです。
それでは、今回のテーマ「日本の特性とは何か」という話に移りたいと思います。
いろんな語り方があるのですが、今日は先ほどから言っているように、感性の部分で捉えていただくという必要もあるので、そういう意味でキーワードというものを挙げて、日本というものをご紹介したいと思います。
これは私の感覚です。それはまず、お断りしておかなきゃいけない。つまり、私の感覚で日本というものを考えたときに、こういうキーワードが頭に浮かぶということです。
●日本を考えるためのキーワード「安堵・安泰」
まず浮かぶのは「安堵・安泰」という言葉です。「安堵感」とよく言いますね。それから、「安泰」ですが、何か健やかに、あるいは非常に落ち着いているということです。私は『清く美しい流れ』(PHP研究所)という本を書いた時、世阿弥、利休、芭蕉というわび・さびの流れとか、北条泰時から来る武士道とか、いろんなものをそこで解説を...