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豊かな自然から生まれる「安堵・安泰」を経営に生かす

日本の特性とは何か~「日本的」の本質(3)日本の風土が育んだ安堵感

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
日本の特性を理屈ではなく感性で捉えるべきだとして、田口佳史氏が挙げたキーワードが「安堵・安泰」である。これは日本の風景に由来するのだが、つまり自然、風土が思想、哲学に反映しているということだ。日本は豊かな自然に恵まれているため、安堵感というものが人々の心を占めているといえる。田口氏はこの特性を経営にも生かすべきだと言う。(全7話中第3話)
時間:10:49
収録日:2020/01/08
追加日:2020/05/13
≪全文≫

●軽薄な転換にならないために


 ここまでお話ししたからあえて言っておくと、変えてはいけない点があるということです。変えてはいけない点を見失ったら、もう根無し草になって、とっても軽薄になりますよと。だから転換というのは重要なんだけど、軽薄に転換したら、もう最悪なんだと思います。

 本当の転換で大事なのは、自分のアイデンティティがしっかりしていることです。己というものを忘れない。自分はこういうものだということを忘れない。要するにアイデンティティが重要だということです。

 そこで今日のテーマです。われわれは本当にちゃんとした形で日本というものを知っているだろうか。心得ているだろうか。このように問い直すことが、今、非常に重要なんじゃないかと思うわけです。そういう意味で、今日は「日本的を探究する」という中の第1回目として、「日本の特性とは何か」ということをお話しようということです。


●理屈より感性で捉える


 どのようにお話ししようか、ずいぶん悩んだんですけれども、これからの転換というのは理屈よりも感性という部分での転換というものがかなり重要なのです。ですから、制度とか方針とか、そういうものが先行しすぎた転換は非常に重要なものが削ぎ落とされてしまうということです。そういう意味では、明治の転換とずいぶん違うところがあって、感覚的な部分もそれなりにあるということです。

 それでは、今回のテーマ「日本の特性とは何か」という話に移りたいと思います。

 いろんな語り方があるのですが、今日は先ほどから言っているように、感性の部分で捉えていただくという必要もあるので、そういう意味でキーワードというものを挙げて、日本というものをご紹介したいと思います。

 これは私の感覚です。それはまず、お断りしておかなきゃいけない。つまり、私の感覚で日本というものを考えたときに、こういうキーワードが頭に浮かぶということです。


●日本を考えるためのキーワード「安堵・安泰」


 まず浮かぶのは「安堵・安泰」という言葉です。「安堵感」とよく言いますね。それから、「安泰」ですが、何か健やかに、あるいは非常に落ち着いているということです。私は『清く美しい流れ』(PHP研究所)という本を書いた時、世阿弥、利休、芭蕉というわび・さびの流れとか、北条泰時から来る武士道とか、いろんなものをそこで解説をするわけですが(江戸の教育についても触れているんですが)、そういうものも含めて考えたとき、「ひと言で日本を表現するとどうなりますか」という、そういうリクエストがありました。

 私は2、3日、真剣に考え、こういうことはどうなんだ、こういうことはどうなんだといって、いろんな言葉を挙げましたが、やはり安堵、安泰というのが非常によく日本を表している言葉なのです。


●日本の自然、風土が思想・哲学にも反映されている


 そうしたものはどこから来るんだというと、まずは日本の風景です。1つ例をお話しします。

 仏教は現世を否定しているわけですが、仏教の教えは何かといえば、(死んだら早く)あの世に行って二度と帰ってこないということです。帰ってこないようにするために、ベナレス(ヴァーラーナシー)というところで火葬にして、みな流してしまう。何かここに残滓があるとそこへ帰ってくるから、全部流してしまうというのが仏教です。だから、そういう意味で現世を否定しているわけです。

 ところが、儒家の思想は、現世を肯定している。それから現行の政治も肯定している。老荘思想は、現世は肯定しているけれど、現行の政治は否定している、そういうものなんですが、でも、現世は中国古典、漢籍では全部肯定している。いったいどこにその差は出ているんだろう、なぜそう違うんだろうということを10年ほど追いかけて検討してみた結果、もうこの答えしかないのです。

 それは、インドは厳しい風土であるということです。暮らしていくのにとっても厳しい風土であって、もう二度とこんな厳しい風土で、厳しい生活をしていくことはもう御免蒙りたい。ですから、もう1回戻ってくるかというと、「そんな、とんでもない。もうあの世に行ったら、それっきりにしてもらいたい」と、人間のほうから思っている。ところが中国では、北中国には厳しい自然環境はあるけれども、特に南中国は非常に自然が豊かです。したがって、それが全て思想・哲学にも反映されているのです。


●豊かな自然から生まれる安堵感を経営に生かす


 そういう意味で、日本の思想・哲学から言って、特に神道などを徹底的に追究していけばいくほど、日本の風景あるいは自然というものにわれわれ日本人はものすごく癒されているということを考えざるを得ないのです。照葉樹林帯という非常に自然に恵まれた、そういう地域に住んでいると...
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