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「鳴かぬなら それもまたよし ホトトギス」に込めた思いとは

松下幸之助と人間大事の経営(6)「それもまたよし」には続きがある

情報・テキスト
松下幸之助の名言として、よく引用されるのが「鳴かぬなら それもまたよし ホトトギス」の句だ。戦国三英傑の違いを表した故事に、さらに別の可能性を開いた言葉として着目される。しかし、その真意は、一般に考えられるよりも奥深い。(全7話中第6話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:08:22
収録日:2019/08/20
追加日:2020/08/02
キーワード:
≪全文≫

●「それもまたよし」を生んだ中国古典


── 江口さんに今日どうしてもうかがいたかったのが、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康の読んだホトトギスの俳句をもじって、松下幸之助が「鳴かぬなら それもまたよし ホトトギス」という言い方をしていたことです。これは、松下政経塾の思い出として強く残っています。いろいろな人を育てようとしても、なかなか人は育たないもので、育つ人もいれば、なかなか育たない人もいる。松下幸之助は「それもまたよし」と考えたのでしょうか。

江口 そうでしょうね。これは中国の話ですが、昔とても人徳のある人がいた。そこへ来た人が、「あなたは人徳があると言われています。さすがですね」と言うと、「それもまたよし」と言う。別の人が来て、「あなたは人徳があると言われているけれど、それは表面的なことで、ボロボロに言う人もたくさんいますよ」と言うと、「それもまたよし」と言った。また別の人が来て、「うちの子どもが病気になって、今にも死にそうになっている。悲しくて仕方がない」と言ったら、「それもまたよし」と言った。そこで奥さんが「それはないでしょう。わが子が病気で、一言でも慰めの言葉をあなたに言ってもらおうと思って来ている相手に、『それもまたよし』はないでしょう」と言うと、「それもまたよし」と答えたという話があります。

 中国古典に出てくる、この「それもまたよし」には奥深いものがあると思います。これは歴史の本に載っていたかもしれないけれども、「それもまたよし」と言うその人が、「それもまたよし」でとどまっているかどうか。そこからが「人間道」の出番で、松下幸之助の場合は、そこに「あるがままに認めること」「容認すること(受け入れること)」、その次に「礼を尽くして処遇すること」が入っています。


●受容、容認する「またよし」には、その後がある


江口 「鳴かぬなら それもまたよし ホトトギス」は、それらを前提にした「それもまたよし」なのです。信長、秀吉、家康、幸之助の違いをよく表しているので、よく引用されます。

 幸之助は、「それもまたよし」でとどまっているのではない。「それもまたよし」だけれども、礼をもって処遇しないといけないわけです。だから、その時にどのような処遇をするかが問われます。

「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス(織田信長)」「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス(豊臣秀吉)」「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス(徳川家康)」。この三句は、いずれも極端にいえば、籠にとどめているわけです。

 しかし、「それもまたよし」と幸之助は言った。「人間道」を知っている人なら、その次に「そのホトトギスをどう処遇するか」という話が出てこないといけない。それは礼をもってすることなので、「あなたは鳴かなかったけれど、結構楽しませてくれた。籠のドアを開けてあげるから、野山に帰りなさい」という処遇になるかもしれないのです。中国古典のように、「それもまたよし」だけで終わるのではありません。

── その後があるのですね。


●籠の中のホトトギスに「処遇」を考える幸之助流


江口 中国古典の「それもまたよし」にも、それなりに奥深い意味があるけれども、幸之助の場合は「それもまたよし」の後に「処遇」という続きがあることを頭の中に置いておかなければなりません。

 社員の中に悪いことをする人がいたとき、「それもまたよし」で済むかどうかです。悪いことをする国民を日本中から1人もいなくすることは、天皇陛下でもできない。それなのに、私ごときが会社の中で社員1人が悪いことをするからと悩む必要はない。さんざん悩んだ末に、幸之助はそう結論を出しました。

 しかし、その人をそのままにしておくかというと、それは別の問題です。だとしたら、その人を別のところに移して処遇してあげよう。その人の能力がより発揮できるようなところに処遇してあげよう。もっといえば、うちの会社で能力が十分発揮できないのだったら、こっちの会社のほうが能力が発揮できる。「そういう会社を紹介してあげようか」という処遇の仕方があります。うちで好ましくないから切ったりするのではない。礼をもって臨めば、切るにしても切らないにしても、いろいろな処遇があるということです。
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