●「基本の徹底」「理念の具体化」「自分で考え、行動する」
―― 田村先生のお話もそうですし、執行先生のお話もそうなのですけれども、まず、田村先生が理念とおっしゃいましたが、現状、日本企業に中途半端に成果主義などが入っていますから、執行先生がご指摘されたように、中途半端にやる気を出すと、「人を蹴落としてでも、業績を奪ってでもやってやれ」という下品なやる気になってしまいます。
執行 今、日本はどんどんそうなりつつあります。
―― 汚い部分、嫌な部分でいうと、すぐコンプライアンスでございますとか、ハラスメントでございますということで、訴えられる世の中になりましたから。
執行 僕流にいわせれば、今の世の中で、本当のやる気を出していくには、社会から糾弾されることを覚悟しなかったら、できない。今の日本で、他人に認められたままで、やる気を出そうとしたら、必ず裏にある本音は隠さなくてはならないから。
子どもの教育1つでも、本気で子どもと対峙(たいじ)したら、絶対にコンプライアンスに引っかかる。これは間違いない。社員教育もそうです。僕は武士道で生きているから、間違った成果主義も、きれいごとだけいっているのも反対。だから、いつ引っかかってもいいつもりで僕は生きているよ。もうそうするしかない。
―― 執行先生と違う意味で難しかったのは、田村先生の場合は、サラリーマンだったということだと思います。高知支店のメンバー12名くらいだったら、皆さんの顔が見えていますから、自分の器次第で、「どぶ板営業をしてこい」といったら、リーダーの背中を見てやってくれる人もいると思います。ただ、だんだん部下が増えていって、最後は副社長になられたわけですが、書籍を読むと、副社長のときも同じ論理でやられていた。それだけ大きな組織の人たちを、たとえば「どぶ板的な営業をしてこい」といって、やらせることができたのは、どのようにされたのでしょうか。
田村 やることを超シンプルに3つにしました。
1つは、組織は実行力が大事ですから、基本が必要になります。基本をきちんとやろうといいました。それが「どぶ板営業」ですが、その点をまずは1つ明らかにしました。
2つ目は、何のために仕事をするかをわかっていないわけです。上司のためにやるとかではなく、キリンの理念を実現するためにやる。では、具体的にどうするんだという話になります。そこで具体的には、どこでもキリンが目立つ状態をつくる。お客さんは売れているビールが飲みたいわけですから、そのようにしていくわけです。
あとは全部自分たちで責任を持ってやるというふうにしました。軸ができたから、自由度が高まったのです。これが3つ目で、指示通りやればいいのではなく、それぞれが自分で考えて行動する。これが全然できていませんでした。それまでは「指示通りにやる」ということでしたので。出す指示は、「理念が実現された状態をつくる」ということだけ。あとは全部自分たちでやる。
その3つの方針でやったところ、半年後から変わっていきました。最初は、「理念が実現された状態」がわからないのです。それで、動かなかった。ただ、しつこく、それしかいっていませんでした。「すべてキリンにするんだ」「おいしいビールを工場でつくっているのだから、キリンが飲めないお店があったらお客さんが飲めない。お客さんを差別してはいけない」と、それだけをずっといっていました。そうすると、半年後から工夫をするわけです。工夫をしないと、全部キリンにすることなどはできるわけがない。全部キリンにするのは不可能なのです。でも、そこへ向かって挑戦していくことが大事なのです。
●自分にも他人にも「真の自由」を与えよ
執行 今、どういうふうにやってきたかについて、田村さんがシンプルな3つの項目を話されましたが、それを全部まとめると、サラリーマン社会の中では珍しく、みんなに、真の自由を与えたということですよ。僕は実業家なので、自分にはあると思っているのだけれど、サラリーマン社会にはそれが一番ないように思うのです。僕は自由の問題だと思う。
この「自由」がないと、人間は運命を生きられない。なぜなら、運命というのは、みんなそれぞれ別ですから、全員が自由にならないと運命は発動しないのです。
アメリカの独立戦争のとき、なぜ、アメリカが命がけで戦争までしてイギリスから独立したか。いろいろな理由があっても、1つだけいうなら要するに、商売を自由にやりたかったのです。イギリスから、「ああでもない」「こうでもない」といわれないで。だから、アメリカ独立戦争を象徴する有名な言葉に 「自由か、然らずんば死か」というのがあります。パトリック・ヘンリーの「Give me liberty, or give me death」という言葉です。
田村 自由にや...