●日本の伝統である「他者のために生きる心」を取り戻す
―― 非常にいろいろな議論が展開されてきました。それぞれもちろん、執行先生の部分、田村先生の部分が、ばっちりと噛み合っているところと、同じことをいいながらも少し色合いが違うところがあったりしました。
執行 立場が違いますからね。
―― ただ、向かっている方向性は本当に一緒だというのは、特に感じるところではありました。最後にまとめのお話をいただければと思います。まず、田村先生のお話をいただいてから、執行先生のお話をいただいて、まとめとさせていただきます。今日の対談を受けての感想と、今日の学びを教えていただけるとありがたく思います。
田村 私は世界、近代が行き詰まっているという感じがとてもするのです。何のために生きているのかわからなくなってしまっている。ただ、人への感謝というのは、今度のコロナ騒動でもたくさん世界中から発信されています。感謝の気持ちを看護師さんに伝えたりとか、人類には誰かに感謝する気持ちが普遍性の概念としてあると思うのです。
であれば、今日の話にあったように、どこの会社も「使命」があるわけですよね。「存在理由」があるわけですよ。そうでないと、(会社は)ないわけですから。そうすると、存在理由をもっと発揮するのだと。もっと世の中のために役に立たないといけないのだと。この会社があって本当に良かった、ありがとうといってもらわないといけないということになります。
「そのためにはどうしたらいいか」を考えて進んで行動していくと、周囲から感謝の気持ちが出てくる。それに対して、また感謝の気持ちが出て、お返しをしようという気持ちが出てきてやる。そういう関係性がどんどん構築されていく。それによって一人ひとりの能力が、原始から人間が本来持っている力がどんどん発揮されて、しかも、遺伝子の良いものがどんどん出てきて、悪いものが下がってくる。誰かのためですからね。
そういうことを通じて人間が良くなってきて、「他者のために生きていく」というのは、日本の文化のなかに色濃く残っていますから、それをもう一度、失われたものをもう一度、キリンビールでやったように、それぞれの企業でやる。キリンビールの本来の伝統というのは日本らしいものだったのです。全体で捉えるとか、利他です。社会のために企業があるのだという日本の伝統を、もう一度復活させる必要があるのではないでしょうか。利益を上げるためには、「誰かのために」が必要であり、それを日本でやっていくことが、いずれその先にある世界につながっていく。
世界の秩序は、今、崩壊してしまって、何が何だかわからなくなっています。中国は国家専制資本主義になっているし、西洋は没落している。そういうなかで、日本が持っている本来のものを、企業がもう一度つくり上げていくことによって、世界を変えることにつながるのではないだろうか。そういうことを、今日、先生のお話をうかがっていて思いました。
執行 なるほど。
●何よりも大切なのは「素直な心」
執行 まとめというほどのことはないのですが、田村さんのように一流企業のなかで出世された方と話をしていて一番思ったことは、自分の持てる力を実現した人というのは、「素直」だということ。素直さというのを、僕はすごく田村さんに感じました。その素直さがあるから、会社の理念やなんかを受け入れる。そして、自分の運命というのを知らず知らずに生きていくのだと思います。
運命を受け入れるには、宿命という嫌なものを全部受け入れなくては駄目ですから。僕は宿命理論をずっと自分で立てているのですが、田村さんと話して実感として得たのは、1つの育ちの良さなのかもしれないのだけど、素直さがある人が、嫌なことやなんかを全部受け入れられると思いました。だから、「素直な心」が人間にとって一番重要なのではないでしょうか。
僕は今日、自由や自己信頼について、たくさん話しました。田村さんと話していた実感で思うのですが、素直な人は、素直な心のなかから自己信頼を掴むことができるし、自由も掴むことができる。そういうことを、実感しました。それが何か物事を乗り越えていく勇気を生み出すのです。
では、「素直な心」はどうして出てくるのかと、田村さんと話していて一番思ったのは、「人間の品格」です。今の人が嫌いな言葉かもしれないけれど、本当の意味の「育ちが良いとか悪い」とか、そういうことなのだと思うのです。僕は田村さんの育ちは知らないけれども、両親がとても良かったのだと思いますよ。
田村 両親には感謝しています。
執行 ご両親や先輩からいろいろと受けたのでしょう。僕は、サラリーマンをやっていて、尊敬できる先輩がいることは、本当にすばらしいことだと思います。そう...