●勝てる見込みが低い戦争に、断固突き進ませたものとは?
―― そうやって考えていくと、今日の主題がずっと1本通っていると思うのですけれども、いろいろなキーワードがあると思うのです。「泥と蓮」ではないですが、田村先生がおっしゃっていた理念は、まさにきれいなところなのですが、それをやるためには、泥を全部引き受けることが大切だということですね。
執行 引き受ける覚悟が必要ですね。
―― 全部やらなくては……。
執行 全部やらなくては駄目です。
―― それをやると初めて理念がわかる。要するに理念だけをいっていても駄目だということですね。
執行 本当の意味で泥を背負えば、だんだん理念というのはわかってくる。苦労した人は、本当の人間が持つ気高さがわかってきます。それと同じです。
―― もう1個のキーワードが、責任と自由。運命なり、宿命なり、嫌なものもひっくるめて全部自分で引き受けるということですね。
執行 それが自由ということです。
―― 自由になることで花開いていく。
執行 嫌なことも全部宿命として引き受けると、自分の運命が自由に回転してくるということです。だから、実は自由というのは、「良くなろう」とか「きれいになろう」とか、良いことばかりを思っている人は、実はがんじがらめで、そうはならないということです。
アメリカの独立戦争のときも、アメリカ人は、自由を美しくてきれいなものとしてはいっていない。先ほど、パトリック・ヘンリーの「自由か、然らずんば死か」という言葉を引用しましたが、「独立して、みんなで美しくて、楽しい国にしようよ」とアメリカ人がいったわけではありません。自由なのか、死ぬのか、どっちなのか。そういう命がけの戦いに入ったのです。アメリカの独立戦争でアメリカが勝ったから、みんなが知らないことがあります。研究するとすぐにわかるのですが、戦争を始めたとき、アメリカ軍がイギリスに勝って独立できる確率は、兵力、作戦、兵站(へいたん)、工業生産などすべて含めて考えると、詳しい数字は忘れましたが、とにかく5%以下だったのです。
田村 そうなのですか。
執行 例えば、アメリカがイギリスに勝てる確率が1%とか2%だったとしたら、アメリカ人は、1%か2%しか勝てる見込みのない戦争に突入したわけですよ。
田村 それは何か価値があったわけですね。守る価値とか、つくる価...