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「お客さんに喜んでもらうため」と考えると工夫が生まれる

真のやる気とは何か(12)業績と幸せは両立できる

対談 | 執行草舟田村潤
情報・テキスト
アメリカはなぜ無謀ともいえる独立戦争に挑んだのか。彼らを戦いに駆り立てたのは、可能か不可能かという判断ではなく、「自由か、然らずんば死か」という覚悟に他ならない。同じく、高知キリン支店は、2700軒の飲み屋を回るという一見不可能な課題に挑戦したが、結果、見えてきたのは、「お客さんのため」と考えてどんどん工夫をし、勝ちつづけて、そこに自分たちも強烈な幸せを感じるという好循環だった。会社の利益と個人の幸福は両立できるのである。(全14話中第12話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:01
収録日:2020/04/10
追加日:2020/09/18
カテゴリー:
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≪全文≫

●勝てる見込みが低い戦争に、断固突き進ませたものとは?


―― そうやって考えていくと、今日の主題がずっと1本通っていると思うのですけれども、いろいろなキーワードがあると思うのです。「泥と蓮」ではないですが、田村先生がおっしゃっていた理念は、まさにきれいなところなのですが、それをやるためには、泥を全部引き受けることが大切だということですね。

執行 引き受ける覚悟が必要ですね。

―― 全部やらなくては……。

執行 全部やらなくては駄目です。

―― それをやると初めて理念がわかる。要するに理念だけをいっていても駄目だということですね。

執行 本当の意味で泥を背負えば、だんだん理念というのはわかってくる。苦労した人は、本当の人間が持つ気高さがわかってきます。それと同じです。

―― もう1個のキーワードが、責任と自由。運命なり、宿命なり、嫌なものもひっくるめて全部自分で引き受けるということですね。

執行 それが自由ということです。

―― 自由になることで花開いていく。

執行 嫌なことも全部宿命として引き受けると、自分の運命が自由に回転してくるということです。だから、実は自由というのは、「良くなろう」とか「きれいになろう」とか、良いことばかりを思っている人は、実はがんじがらめで、そうはならないということです。

 アメリカの独立戦争のときも、アメリカ人は、自由を美しくてきれいなものとしてはいっていない。先ほど、パトリック・ヘンリーの「自由か、然らずんば死か」という言葉を引用しましたが、「独立して、みんなで美しくて、楽しい国にしようよ」とアメリカ人がいったわけではありません。自由なのか、死ぬのか、どっちなのか。そういう命がけの戦いに入ったのです。アメリカの独立戦争でアメリカが勝ったから、みんなが知らないことがあります。研究するとすぐにわかるのですが、戦争を始めたとき、アメリカ軍がイギリスに勝って独立できる確率は、兵力、作戦、兵站(へいたん)、工業生産などすべて含めて考えると、詳しい数字は忘れましたが、とにかく5%以下だったのです。

田村 そうなのですか。

執行 例えば、アメリカがイギリスに勝てる確率が1%とか2%だったとしたら、アメリカ人は、1%か2%しか勝てる見込みのない戦争に突入したわけですよ。

田村 それは何か価値があったわけですね。守る価値とか、つくる価値があったのでしょう。そうでないとやるはずがないですから。

執行 それは「自由」ですよ。

田村 そうですね。

執行 イギリスから、ああでもない、こうでもないといわれて、不当な税金をかけられるくらいだったら、死んだほうがましだということです。こういう気持ちは、とても尊い。これが良い意味のアメリカという偉大な国家を生み出したのです。「自由か、然らずんば死か」です。

田村 理念はきれいなのですが、行動に移したわけですね。これもやはりドロドロしている。

執行 そのドロドロが、今の日本人が一番嫌いな戦争なのです。要は人殺し。すばらしい理念の民主主義の最初の国は、それこそ今の日本人が一番嫌いな人殺し、戦争によってできた。これは重大なことです。これがわからないと、実は、良い民主主義の国になるにはどうすればいいのかがわからない。

田村 命をかけて何かをやる、その「何か」ですよね。


●2700軒の飲み屋を回るために何をやったのか


―― ということは結局、自分の命までかけて実現すべき美しいものがわかっていないということなのですね。

執行 先ほどの文学の話ではありませんが、いろいろなことがわかっていないということでしょう。だから、今の時代に「やれ!」といっても、それは無理ですよ。ないのだから。少なくとも僕はやっているつもりだけど、皆さんが知っての通り、偉大だった日本人、偉大だった世界中の人間の本を通じて、魂の雄叫び(おたけび)が好きで学んできたからなのです。僕も自分の思想とか理念とか志が実現できないなら、もう死んだほうがましだと今日こんにちも、毎日思っていますから。それは、従業員も同じです。

田村 キリンビール高知支店もそうでした。キリンがおいしいと思ってもらうためには、どこのお店にも置かれていないといけないのですが、当時、2700軒の飲み屋が高知にはあったのです。

執行 そんなにあるのですね。

田村 あるんですよ、2700軒ですよ。

執行 高知というのは結構広いですね。

田村 広い のです。上に持っていくと、広島、岡山、神戸にまたがりますから。そこをセールス10人で回ったのですよ。

 2700軒あるので、回れるわけがないのです。ところが、すべて置こうと考えた。そうすれば「おいしい」と思ってもらえる。これは、これは置くしかないのです。不可能か、可能かではないのです。全部置いても...
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