●「武器としてのリベラルアーツ」がどこまで役立つのかと自問
―― 皆さま、こんにちは。今回はテンミニッツTV座長の小宮山宏先生と、副座長の曽根泰教先生をお招きして、「新型コロナウイルス問題の中間まとめ」ということで、お話ししていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
小宮山 よろしくお願いします。
―― まず、これまでテンミニッツTVで行われてきた新型コロナウイルスに関する講義を分類したものが、いま画面に出ております。非常に幅広い講義を展開してきましたが、この問題は刻々と状況が変化していっています。この機会に、これまでに何が分かっているのか、これからの課題は何なのかなどの点に関して、中間まとめをするという趣旨で、今回の講義を企画しました。
まず小宮山先生、これまでテンミニッツTVとして新型コロナウイルスに関する特集を進めてきたことの意味、そしてこれからこの問題に取り組んでいく際に求められる知的な態度、心構えに関して、お話しください。
小宮山 はい、ありがとうございます。われわれは、教養について考えています。教養とは、よりよく生きるための知の力として定義しています。現下、新型コロナウイルスへの対処は、最も重要な問題です。こうした喫緊の課題に役立たないのであれば、「武器としてのリベラルアーツ」といえるのか、とわれわれは自問しました。微力ではあるものの、著名な先生が集まっているので、精一杯現下の問題に取り組むべきだろうと考えて、ここまで進めてきました。
●新型コロナウイルス問題で重要なことは「アジャイル」
―― はい。これまでの取り組みを受けて、これからさらにどのような知的な態度で、この問題に臨んでいけば良いのでしょうか。
小宮山 一つ重要なことは、「アジャイル」(agile)、あるいは名詞形の「アジリティ」(agility)です。これは、素早く反応することを意味する言葉で、経済学やソフトウェア開発に携わる方はご存じだと思います。一種の流行り言葉です。
今回の新型コロナウイルス問題は、新しいタイプのもので、それに対していわば人類が各国ごとに総力を挙げて取り組んでいます。その中で、新しい情報が日々刻々世界中で生まれてきているわけです。
初めてこの問題に関して耳にした時には、正直にいうと、私は風邪とインフルエンザに同時にかかるようなものだと思いました。現在でも、その認識全てが間違っているわけではありません。しかし、これだけ大きな問題になってきたということは、私の最初の時点の感想は、不十分だったわけです。
この特集を始めた頃の状況はそのような段階にありましたが、それからまたしばらく経過して、2020年7月の状況はまたそれとは大きく異なるものになってきています。ですので、今後も状況は変化していくでしょう。新薬ができるかもしれません。あるいは、より深刻な死亡率の国が出てくるかもしれません。各々の時点で、新たな対策について考えていく必要はありますが、今ある知識に基づいてベストな全体像の理解についてまとめていく営みは、この後の適切な対処のためにも不可欠でしょう。そして、その営みをリードするのが、教養だと思います。
●グローバルな問題なのに、グローバルシステムが揺らいでしまっている
―― ありがとうございます。それでは、曽根先生、同じ問いに関してお考えをお聞かせください。
曽根 はい。世界中で同じ現象が起きたということが重要です。新型コロナウイルスは、世界中に拡散していきました。その中で、各国がそれぞれの対応策を取りました。たとえばEUでも各国が国境を閉じるという対策を取るなど国単位で政策が取られ、あるいはアメリカでは州単位、日本では自治体単位で各自が対応していきました。つまり、今後の課題でもありますが、世界中のガバナンスを比較して、現段階でのパフォーマンスを評価できるのです。
ただ、ここで注目しなければならないのは、この現象はグローバルな問題なのにもかかわらず、グローバルシステムが、実は揺らいでしまっているという点です。WHOがもっと対応しなければならないのですが、この機関に対する信頼性が失われているという状況です。したがって、どのようなグローバルシステムを構築して、世界全体としてどのように対応していくのか考えることが次のステップですが、まだそこまでは至っていないという理解です。
●世界各国の状況の比較から見えてくる3つの重要な要素
―― ありがとうございます。こちらの問題意識に基づいて、中間まとめを進めていきたいと思います。現状に関する資料を、小宮山先生にまとめていただいています。現在2020年7月中旬という段階の状況に関する解説をお願いいたします。