●経済再開と感染拡大の防止のバランスをいかに取るか
―― はい。最後の問題になりますが、先ほどのご指摘で、専門家組織の中に経済学の専門家を含めるという話がありました。これから問題になるのが、感染の拡大防止を目指す一方で、自粛などによって打撃を受けた経済の回復をどのように両立していくかという点です。この点に関して、今後どのように考えていけば良いと思われますか。
曽根 現在、特に槍玉に挙げられているのは、東京・新宿におけるホストクラブやあるいはライブハウスなどです。そういったところは、三密の状態で、唾を飛ばすなどしてそれを吸い込みやすいという状況が生まれやすいことは確かです。しかし、実はそれ以外の場所でも同じような状況はつくられていて、感染は拡大しています。
現在までに分かっていることに基づいて判断するならば、リスクが非常に高そうな場所での営業は当面やめてもらう、自粛してもらうという、ピンポイントの政策はあり得ると思います。例えば、東京都と岩手県では全く状況が異なるので、本当にリスクが高そうな場所にのみ、休業や自粛してもらうのです。
そうした措置を取った場合、補償をどうするかというのは厄介な問題です。東京都も財源をかなり使い尽くしてしまい、国の財政も逼迫してきている。こうした状況で、補償問題というのは、例えば、天災が起きたときに補償するのかという問題とも大きく関わることなのですが、経済学者的な一つのアイディアとしては、営業を許可する代わりに、営業に対する税金(例えばコロナ税)をかけるという案があります。環境税と同じようなロジックの話です。
こうしたシステムについて、これから考えていかなければなりません。一律全員に補償するのは難しい。一方、二者択一ではないのですが、つまり、全てロックダウンして、経済もストップして、接触禁止にするという選択と、経済活動を再開してフル活動させるという選択の間には、さまざまな選択肢があるのです。この間に存在する最適なオプションに関しては、さまざまな人が試算して検討しています。自粛と経済活動の再開のバランスの最適な組み合わせに関する試算がいくつかあるので、先ほど小宮山先生が指摘されたように、ABCなどのプランを比較して判断するのも、一つの手だと思います。
●蓄積された知識を生かし、リスクを最小限に抑えた経済活動の再開を
―― 小宮山先生はこの案に関していかがですか。
小宮山 一つ明確なことは、当然ですが国のGDPは経済活動の結果として生まれているので、経済活動を抑制すればその分のGDPは無くなります。現在の日本の年間GDPは500兆円規模なので、単純に等分するとひと月当たり約40兆円となります。例えば、その半分の経済活動を抑制したとすれば(今はそれに近いと思いますが)、それだけで20兆円分です。これを誰が補填するかというと、国民が負担する以外にはありません。こうした前提を共有する必要があります。
また、先ほど指摘した通り、死亡者の94パーセントは60歳以上というデータをもとに、経済社会を再開させる方法を考えるべきでしょう。一つの方法は検査体制の拡充ですよ。例えば、今「Go to キャンペーン」が話題となっていますが、これだけ感染者が増えている中で、「Go to キャンペーン」とは何なんだという批判が集中するのは当然です。私が考える一つの方法は、旅行する人は自費で現在考えられる最適な検査を行うことを求めるのです。その上で積極的に旅行を奨励するのです。これは例えばの話ですが、そのような形で経済社会の活動を再開させる。それは、今まで得られた知識を最大限動員して対応するということだと思います。
●新型コロナウイルス対策に求められるのは全体観とスピード
―― 曽根先生、小宮山先生から経済活動再開に向けた具体的な施策の提案がありましたが、今後経済活動を前進させるためには何が必要だと考えられるでしょうか。
曽根 はい。簡便に検査が可能だとすれば、例えば会議の1時間前に参加者が集まって、簡単に検査をして、陰性だった人だけ会議に実際に参加すれば良いですね。
旅行の際も同じです。先ほど検査の頻度に言及しましたが、新型コロナウイルスに関しては、一度陰性判定を受けた人が後日、陽性と判定されるという可能性もあります。例えば、私が2週間前にPCR検査で陰性判定を受けたとしても、現在では他の場所で感染しているかもしれません。どこで感染するか分からず不安なので、自宅に巣ごもりするという判断になっているように思います。特に高齢者は、とにかく危険らしいのでレストランにも行かず、電車にも乗らないという判断となっているようです。
その結果、飲食業や観光業は、売上が瞬時に蒸発してしまったわけです。このなくなってしまった売上を取り戻すために、ど...