●「会社は大きいほうがいい」のは過去の話
―― あと二つお聞きしたいのですが、一つは、会社の中をどう変えていくかということです。2022年にパナソニックが持株会社制へ移行します。これまでかなり厳格な事業部制を実施していた会社ですが、それを完全に切り分けていくという方向性を出しました。あのような方向性はこのシリーズでの柳川先生のお話からすると、正しいということになってくるんでしょうか。
柳川 これも本当は少し産業によって違うと思いますし、それぞれの会社の規模によっても違うと思うんですが、経済学的に見たときの大きな流れでいくと、基本的に今までというのはとにかく会社が大きいことにメリットがあるという方向できたと思うんです。なので、どの会社もできるだけ資金調達をして大きくなろうとしてきました。
それは合理的な面もあったと思います。やはり大きい会社であればある程度資金調達もしやすいし、投資もしやすく、人材もいい人材が集まる。何よりも、大きな設備投資をしないとなかなかできない産業分野が多かった。大きくてしっかりとした設備投資ができれば、その産業がリードできるというような、こういう構造があったと思うんですね。
●技術革新によって大企業は小さな企業の集合体という形に変わっていく
柳川 ところが、今起きている技術革新というのは、基本的に大きな設備投資をあまり必要としない分野が多くなってきています。場合によると、ほとんど設備投資を必要としないで、人の知恵だけで会社が回っていくような部分はあるわけですね。
そうなってくると、全体的にいえることは、どちらかというと今まで規模を追い続けてきたんだけれども、それよりも最適な規模が小さくなってきているということです。もし会社の規模はもうちょっと小さい方が小回りがきくし、必要な資源もそこで投入できるという構造になりつつあるとすれば、かなりの産業、かなりの企業でいかに全体的に大きく肥大化した企業をもうちょっとスリムなものにしていくか、あるいはパナソニックの例のように小さい企業のかたまりに分割していって、それぞれがより機動性を持つような形にするか。そうしたことが必要になってきていると思うんですね。
もちろん一から小さい会社をつくっている場合は、そういう話は考えなくていいですが、産業によってはいまだに大きな設備投資が必要な分野もあるので、全部が全部とはいえません。ですが、今起きている技術革新は基本的に企業の規模はあまり大きくなくていい。ということでいくと、おっしゃっているように、いろいろな小さな企業の集合体のような形で大企業が変わっていくというのは一つのあり方なんじゃないかなと私は思っています。
●小回りのきく規模で意思決定のスピードを高める
―― そうなると、松下電器(パナソニック)の例で、これは時代も違うのでストレートにその通りとはいえないんですが、有名な事例があります。これはどこまでやって諦めるか、あるいはどこまでやり抜くのかという話なんですが、例えば扇風機の事業です。昔でいうと、あれは当然ながら夏しか売れませんとなるけれども、松下幸之助さんに詰められる。「おまえ、どうして売れんのや」と。そこで、「大阪城のてっぺんに行って会議をしたら分かるだろう」ということでそこへ行って考えているうちに換気扇を思いついた。換気扇を全家庭に普及させるということになり、そちらの方向に展開していくということで、また新たな道を見つけられるということもあるというエピソードもありました。
つまり、諦めるか、もう一歩踏ん張ってブレイクスルーするかといったとき、やはり小さくしたほうが、そのあたりの判断がスピーディになるということなんでしょうか。
柳川 これまではやや大枠の話をしているので、全ての事例に当てはまるわけではないんですが、スピーディな判断というものは今、重要になってきています。どちらかというと、日本の企業、特に一流企業は意思決定に時間がかかる。世界的にみても意思決定に相当時間がかかるというのが大きなデメリットだといわれています。なので、ある程度組織を小回りよくすることによって意思決定のスピードを高めていくというのは、メリットにつながる可能性は高いんだろうと思います。
それともう一つ。大きな会社でないと小回りをきかせようにも自分にできるところは限られており、そうすると小回りをきかせても動ける範囲は変わらなかった。けれども、今はある種、全然違うことをやってみようと思ったら、簡単にそういうことがやれるだけのテクノロジーになっているという面も大きいと思います。
●会社のカルチャーに縛られない形で新しいアイデアを実現させていく
―― もう一つお聞きしたいのは、会社を改革する一つの視点として今、おっし...