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『即身成仏義』で空海が説いた悟りの方法「三密」修行

【入門】日本仏教の名僧・名著~空海編(2)『即身成仏義』と自他一如

賴住光子
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授
概要・テキスト
空海の残した名著の一冊目は『即身成仏義』である。本来、仏教では悟りを得るために「未来永劫」というほどの長時間を要すると説いたが、空海は「現在の自分の身体」で速やかに悟る方法を書き残した。それが、身口意による「三密」修行だが、同じ大乗仏教として、最澄の世界観と相似するところもある。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:31
収録日:2020/08/20
追加日:2021/03/11
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≪全文≫

●「この身のままで速やかに仏に」なることを求めた空海


―― では、空海の残した文章のほうにまいりたいと思います。まず『即身成仏義』ですが、これはどういうものですか?

賴住  はい。「即身成仏」というのは、空海が非常に重視していた事柄で、「この身のままで速やかに仏になる」という考え方です。

 一般的に、仏教では、何度も何度も輪廻転生して、生まれ変わり続けながらずっと修行し続けて、非常に長い期間がたってようやく成仏できるというのが基本です。これを「三劫成仏」といいますが、三劫の「劫」は時間の単位です。100年に1度天女が天から下りてきて、非常に大きな岩をすっと袖でなでる。そうすると、ほんの少しだけ岩が擦り減る。それをずっと続けていって、最後に岩がなくなったら「一劫」になるといわれます。

―― それは膨大な時間ですね。

賴住 膨大な時間です。それを3回繰り返すということで、本当に長い期間を生まれ変わり死に変わり修行し続けないと成仏できないぐらい、成仏というのは難しいのだということです。しかし、空海をはじめとする密教思想の中では「即身成仏」ということで、まさに生まれたままのこの身で修行して成仏できるという考え方を強く打ち出していきました。

―― 日本で「即身成仏」というと、例えば土の中にこもって、ずっとお経を唱えながら亡くなっていったり、あるいは「補陀落渡海」のように、和歌山の海から漕ぎ出していくようなものも有名ですが、それらとも結びつく考えですか。

賴住 そうですね、そのようにも展開していくと思いますが、空海が言っていたのは、むしろ、もう少し哲学的な部分が多いのではないかと思われます。

―― 哲学的な部分ですか。分かりました。


●達成すべき「理想の悟りの境地」を表現


―― では、実際に読んでみたいと思います。

「六大無礙(ろくだいむげ)にして常に瑜伽(ゆが)なり。四種曼荼(ししゅまんだ)各(おのおの)離れず。三密加持すれば速疾(そくしつ)に顕わる。重重帝網(じゅうじゅうたいもう)なるを即身と名づく。」

 これは非常に難しい文章でございますね。

賴住 そうですね。これはもう空海が、自分の「即身成仏」ということに託している思想的な意味を端的に全面展開している文章で、本当に難しい文章です。

 「六大」というの...
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