渋沢栄一の生涯と教養としての『論語』
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
渋沢栄一の人生に影響を与えた藍づくりの経験
渋沢栄一の生涯と教養としての『論語』(2)藍づくりとビジネスマインド
田口佳史(東洋思想研究家)
渋沢栄一を育てた環境ともいえるのが渋沢家の藍づくりだ。しかし、藍づくりはとても難しく、苦労しながらもそれをしっかりと進めていく祖父から学んだことが、彼のビジネスマインドの育成に大きく影響を及ぼしている。(全9話中第2話)
時間:4分59秒
収録日:2020年3月3日
追加日:2021年7月25日
≪全文≫

●藍づくりがなぜ難しいのか


 今回は、藍づくりがなぜ難しいのかということを少しご説明しましょう。

 (藍の製造工程における)問題はいくつかあります。一つは藍の葉をたくさん集めなければいけないことです。最終的には半分ぐらいになってしまうわけですから、多ければ多いほどいい。そのためには、栄養をやらなければいけない。干鰯のほかにニシンを干した肥料などもあります。そういうものが十分に与えられ、日当たりも水はけも良いところで育ったものが、いい藍です。

 いい藍を安く買う、つまり良材料を安く買うことがとても重要ですから、ここに「駆け引き」の技能もプラスされてきます。ビジネスの根幹はなるべく安いコストで、できるだけいい材料を仕入れることですから、このプロセスを丹念にたどった藍玉を、画期的な価値のある商品にしていくということです。

 渋沢の家では、父親の前の代からこれらの業務を始めていました。祖父は藍づくりの苦労、その体験を重ね、その道のベテランとして鳴り響いていたそうです。渋沢栄一はその祖父に付き従い、藍を買いに行くところから、藍の作業を経て藍玉を売るところまで、ずいぶんしっかり習ったということです。


●藍と絹のプロセスで増えるさまざまなバリュー


 私は今回(のシリーズ講義で)、渋沢栄一と『論語』の関係を皆さんに良く知っていただくために、どう話を構成しようかと考えました。

 渋沢栄一を指す二つの言葉の一つとして、「近代化の牽引者」とよくいわれます。もし彼がなければ、明治の近代化の中で、工業や商業の推進は非常に乏しかったのではないかという考え方です。こう考えると、渋沢栄一という人は近代化の牽引者なのです。

 しかし、彼はなぜ農民でいながら、そこまで近代化を理解して、牽引者たり得たのでしょうか。私がそのために、まず第一に皆さんにお示ししなければいけないと思ったのが、彼の育った環境である藍づくりと絹づくりでした。どちらも非常にプロフェッショナルな技術や感覚が要求されますし、そこで「ビジネスマインド」といってもいいものが育まれました。

 商品を作る過程も、材料を買ってバリュー(価値)をどんどん高めていくプロセスにも、彼は現代のビジネスパーソンよりよほど優れたコツを身につけていたのではないか。そう言わざるを得ないところが多々あります。これについては、彼の育った...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として
ヒトが罪を犯す理由…脳の働きから考える「善と悪」
長谷川眞理子
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(2)運命・世界・他者
「私をお母さんと呼ばないで」…突然訪れた逆境の意味
津崎良典
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由
ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために
夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎