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「忍ぶ恋」のありなしで信念を貫徹できるかどうかが決まる

私の「葉隠十戒」(3)気違ひになりて死に狂ひするまで

執行草舟
実業家/著述家/歌人
概要・テキスト
第五戒「恋の至極(しごく)は、忍ぶ恋と見立て申し候」の恋は、「憧れ」を意味する。憧れは、絶対に手の届かないものでなければならない。手に届かないものだからこそ、自分の生命に崇高なものをもたらすのである。第六戒「一生忍んで、思い死にする事こそ恋の本意なれ」は、忍ぶ恋とは自分以外は永遠に知らない恋で、相手に伝えてもいけないという意味である。「口に出したら嘘になってしまう」という感覚である。第七戒「本気にては大業はならず、気違ひになりて死に狂ひするまでなり」は、すべて死ぬ気で当たらなければ何事もできないということ。第八戒「不仕合せの時、草臥(くたぶ)るる者は益に立たざるなり」は、不幸せのときをどう過ごすかで、その人の生命の価値が決まるという意味である。(全4話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:57
収録日:2021/04/08
追加日:2021/10/15
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≪全文≫

●憧れは、絶対に手の届かないものでなければいけない


―― 次に第五戒ですが、「恋の至極(しごく)は、忍ぶ恋と見立て申し候」。まさに「忍ぶ恋」の話が出てまいります。

執行 恋とは、もちろん男女の恋もあるし、いろんなものがありますが、大きく言うと「憧れ」です。

 憧れとは、絶対に手の届かないもの。遠い憧れでなければダメということです。手の届くものは全部、欲望に変化しますから。欲望に変化するものは、憧れにはなりえない。だから本当の恋にもならない、ということです。必ず手に入らないほど遠いものに憧れる。それを「忍ぶ恋」という言葉で山本常朝は表している。

 これは日本だけでなく、騎士道でもあります。西洋の騎士道の叙任式などの儀式では、必ず憧れの女性を誰か1人選びます。これはマリア信仰から出たものですが、レディ、つまり既婚者など、自分とは絶対に結ばれることがない女性を選んで、その女性の許可をもらい、その女性のために命を捨てるということを誓う。それと同じ事です。

 これがもし結婚したり、恋愛関係になる可能性がある女性だと、欲望に必ず変化してしまう。欲望は自分の生命を殺すものだから、かえってまずいわけです。

―― 絶対に実現しないものという前提が(大切だということですね)。

執行 実現しない恋。それが本当の恋ということです。実現するものは本当は恋ではなく、恋に名を借りた欲望なのです。だから本当に好きな人と結ばれて、一生幸福になったとしたら、それは欲望です。

 本当に、現世で、相手を好きだったとする。そうしたら、結婚しようが何しようが、永遠に本当に相手を好きだと、相手を知りたい、結ばれたいという苦しみになる。相手を手に入れられることは、永遠にないわけです。そういうものが、本物の愛です。本物の愛とは「忍ぶ恋」だということです。結婚をしていても「忍ぶ恋」なのです。

―― それで手に入れたと思ったら間違いだと。

執行 手に入れられるものなら、それは程度がグンと落ちる。現生の物質文明のものであるということ。欲望であるということです。

―― そういう部分で言うと、相手の魂でもあるわけですね。本当に相手の魂と魂が結びつけられるか。

執行 だから結婚して、本当に相手と愛し合う愛を本当に得られるかどうかは、死ぬまでわからないし、死んでもわからない。そのわからないものに挑戦する...
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