●IT産業とイノベーションの中心シリコンバレー見学
シリコンバレーは今や世界のIT産業やイノベーションの中心地になっていますが、なぜそのようになったのかを、皆さんと一緒にフォローしていきたいと思っています。
カリフォルニア州のベイエリアというところにサンタクララという町がありますが、その周辺が谷というほどではありませんが、少し低地になっているので「バレー」という名前がつきました。「シリコン」は、もちろん半導体のシリコンですから、「半導体基地」ということでシリコンバレーという名前が付けられたようです。
私は2019年の10月に、シリコンバレーを見学しました。いろいろな人に会い、いろいろな場所へ行って、非常にいい勉強をしました。その情景をスナップショットとして、皆さんにご紹介したいと思います。
●自由で大らかなグーグルキャンパス
われわれは、グーグルキャンパスというところを訪ねました。グーグルが世界中で雇用している人数までは分かりませんが、シリコンバレーのキャンパスはかなり広く、4万5000人を雇用しているといわれています(当時)。
行ってみると自転車があちらこちらに置いてありました。敷地が広いので、みんな自転車で移動するのです。いたるところに幼稚園みたいな遊び場があります。食堂がとても美味しいと評判なので食べてみましたが、そこまでとは感じませんでした。
ともあれ自由で、ここで働いている人は「労働時間の2割は自分のために使っていい」と言われています。とにかく個性があり、やれる人が存分に働けるような場所をつくっているため、そんな雰囲気があるわけです。創業者たちが若いので、そういうふうにしたということもあると思います。
非常に印象的だったのは、訳4万5000人のうちの約1万5000人が中国人であるところでした。彼らは中堅技術者です。それからインド人が約1万人。われわれが行ったときには、インドの大きなお祭りがあって、みんなで大騒ぎをしていましたが、日本人は40人ぐらいだそうでした。
グーグルには「TGIF」という日があります。「Thank God(実際はGoogle) It's Friday」の略ですが、これを毎月(毎週)行っています。この集まりは1時間ですが、最初の10分は幹部が出てきて、話します。その後、「Thank God It's Friday」の担当部門の幹部がいろいろ話をして、30分ぐらいのQ&Aになります。
とても自由な雰囲気で、立ち見も含めて1000人ぐらいが部屋に集まり、みんなでワインを飲みながら議論をする。こういう感じの会社を、セルゲイ・ブリン氏たちがつくったわけです。それを一つ、ご紹介したいと思いました。
●ジョブズのひらめきを生んだゼロックスのパルク
次に訪れたのはパルク(PARC)というところです。「PARC=Palo Alt Research Center(パロアルト研究所)」で、1970年にゼロックスがつくりました。ゼロックスは当時、非常に巨大な会社で、東部で圧倒的な力を持っていました。その割には「とがったやつが西部で何かやったっていいじゃないか」という余裕があり、パルクに資金を提供してやらせたわけです。
そこにはとても面白い人たちが集まっていたといわれます。この頃にはすでにスティーヴ・ジョブズがアップルをある程度形にしていましたが、ゼロックスはそこにも投資をしていたので、スティーヴ・ジョブズは仲間のようにしょっちゅうここへ顔を出していたようです。
ここの伝説のように語り継がれているのが、「GUI(Graphic User Interface)」という方法論です。
それまでのコンピュータの世界ではIBMが圧倒的で、きちんとしたキーボードで打ち込んだものを四角い画面で見ていたわけです。ところが、この方法では指で絵を描くようにして全部やってのけるので、これを見かけたスティーヴ・ジョブズも「なんだ、これは?」と驚きました。
ジョブズが「デモンストレーションを見せてくれ」と言ったところ、技術者たちはダメ出しをしましたが、「本社のゼロックスがOKならいい」と言う。それでジョブズはすぐ東部に電話をかけて「見せろ」と言う。東部の人々は何をやっているのか分からないので、「まあ、いいじゃないか」と言ったらしいです。
スティーヴ・ジョブズは天才ですから、それを見てすぐに理解し、「あっこれだ」とひらめいた。それが元になってアップルができたという説があります。
アイコンやフォルダー、さらにマウスなどは全てGUIとしてパルクが開発した方法だったわけです。ということは、パルクがアップルの主要アイデアの生みの親ともいえるわけです。アップルがあのような会社になったのはパルクのおかげだといわれています。
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