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深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
情報・テキスト
チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思惑からその歴史的背景に迫る。(全6話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:33
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
≪全文≫

●チベット、内モンゴル、新疆ウイグル…深刻化する中国の人権問題


―― 皆さま、こんにちは。本日は橋爪大三郎先生に「中国共産党と人権問題」というテーマでお話をいただきたいと思います。橋爪先生、どうぞよろしくお願いいたします。

橋爪 よろしくお願いします。

―― 橋爪先生は『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)という本と、『中国 vs アメリカ: 宿命の対決と日本の選択』(河出新書)という本をお書きになりました。中国共産党のあり方や、それがもたらす問題について、いろいろと分析されています。

 今回のテーマは「中国共産党と人権問題」です。今、特に欧米を中心に、ウイグルや香港、あるいはチベット等での人権がかなりひどい状況になっているのではないかといった批判が高まっています。具体的にはどういう状況なのでしょうか。

橋爪 これは今に始まったことではありません。中華人民共和国が成立してから、いろいろなことがありました。まず人々の記憶に残っているのはチベットで、次に内モンゴル、さらに今回の新疆ウイグルです。他にもいろいろあるのですが、中華人民共和国が成立して、中国の一部に編入されている人々が、必ずしもそのことに納得していない、あるいは満足していない状況がありました。これを何とかしようと、北京政府や中国共産党は武力を使って反対派を押さえ込むという多少手荒なことをやりました。

 外部に情報が出てこなかったので、中国のことはなかなか分からなかったのですが、ダライ・ラマがインドへ逃げたりして、チベットで何かいろいろなことが起こっていることが伝わってきました。ただ、これはかなり昔の話で1960年代です。それから、内モンゴルも実はいろいろなことがあって問題が続いています。そして、新疆ウイグルも同じようなことがあり、特にここ10~15年ぐらい、非常に深刻な状態になっています。

 そこには、イスラム勢力が世界各地で大変活発に活動していることに理由があります。中央アジアやアフガニスタンあたりは地続きでムスリム同士なので、そういう運動が中国に波及してきたら困ると深刻に考えています。そのため、いろいろなアクションを取っているのですが、海外からは大変過剰に見え、人権問題に当たるのではないかと心配されています。


●人権は「内政干渉」という考え方を超えた原理


―― 欧米ではこれを「ジェノサイド」という、日本人からすると相当強い言葉を使って批判をしているようです。これはどういうことなのでしょうか。

橋爪 ジェノサイドのもっとひどいのを「ホロコースト」といいます。ホロコーストは、民族皆殺しを意味し、ある民族を抹殺してしまう試みのことをいいます。ジェノサイドは、ある民族またはあるターゲットの人たちを大量に殺害したり、大量に虐待したりすることなので、全員とは少し違います。そのため、ホロコーストに比べると程度が少し柔らかいですが、それでも想像を絶する悲惨な状態であることは確かです。

 具体的にいうと、全体で一千何百万かいる新疆ウイグル自治地区のウイグルの人たちの内、百万人という単位で収容所に収容して虐待しています。施設の名前は「再教育施設」ですが、実質上は法的根拠のない刑務所のようなものです。大人しくしていると、しばらくすれば出られるのかもしれませんが、命を落としてしまう人も多いのです。こういうことを指して、ジェノサイドといっているのです。

―― それは人権違反だということでジェノサイドとして批判しているということですが、中国としては「いやいや、中国には中国のやり方がある」という言い方をしています。日本人としては、これをどのように理解すればいいのでしょうか。

橋爪 まず人権は国民の権利なのかということですが、国民である以前に人間としての権利、すなわちヒューマンライトだという考え方です。ヒューマンライトは、特定の政府が奪うことはできません。

 ヒューマン、つまり人としては皆仲間であるから、例えばある国で独裁政権ができて人権が踏みにじられたりすると、その国の人たちは声を上げたり、抵抗したりすることができませんが、よその国の人たちが自分たちの問題であると考えて、彼らのためにできることをいろいろやります。制裁したり、場合によっては戦争に訴えたりして、そういう権利を守りましょうということで、これが人権という考え方です。

 その国の政府に言わせると、よその国が人権だとか言いながら口を出してくるので、「内政干渉ではないか」という反論になります。人権は内政干渉という考え方を超えた原理なので、内政干渉であると言われようと何だろうと、人権が踏みにじられているのであれば、その事実を知らせ、その事実に対して怒り、共感し、そのためにできることがあれば何でもやる。これが国際社会の反応です...
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