●消費者が満足する製品は何か、分かりづらくなっている
―― 最近の日本企業を見ていると、夢を訴える力がないというのでしょうか。昔はもっと、「こういう素晴らしいものが来ますよ」「これによってこんな良いことになりますよ」という明確なビジョンを打ち出せていた日本企業も多かったように思います。ですが、最近は守りに入っている、あるいは言い訳を含めた言動もあるのではと感じるので、そうした訴える力が弱くなってしまっている気がします。
またデータでいろいろと見えるようになってきた時代の中で、どうすればそういったものを効果的に打ち出せるかという点も、かつてとずいぶん変わってきていると思います。そこで、日本企業が考えていくべきはどういうことなのでしょうか。
柳川 繰り返しになりますが、夢やワクワクするものがあまり感じられなくなった原因として、昔は「とにかく安い製品がほしい」「こういう家電がほしい」など消費者のニーズが明確だったので、企業側もアピールしやすかったのです。「このような製品です。当然、皆さん喜んでくれますよね」ということが打ち出しやすかった。どういった夢を製品やサービスによって実現させやすいかということを、企業側がとても把握しやすかったし、消費者も「このような製品は素晴らしい」と思うことが割と簡単にできました。
ところが今は、かなりの部分がある程度満足できているので、どんな製品を、どんなふうにつくり出せば消費者が満足してくれるのか、消費者が熱狂してくれるかということが、なかなか分からなくなってきている時代なのです。そこに一番の難しさがあるのでしょう。
そのため、「こういう製品は素晴らしくないですか」というアピールから組み立てていかなければいけない。ここが、日本企業がなかなか得意ではなかったという面があると思います。
●失敗を許容し、多くの取り組みを行うこと
柳川 2つ目ですが、そうやってアピールをしていこうとすると、少し時間がかかるのです。また、失敗も許容しなければいけません。
よくいわれる話ですが、新しいニーズをつくり出したという意味では「スマホ」があります。最初にスマホが登場したとき、本当に意味をなすのかと思われたのですが、今われわれはスマホがなければ生活もできないようなニーズを生み出しました。それはスティーブ・ジョブズが生み出したビジョンだったし、彼の世界観が世の中のニーズをつくり出したのです。
ですが、スティーブ・ジョブズが行ったことは、iPhoneだけではありません。実はその裏側に、今では誰も名前も思い出せないようなさまざまなアイデアを出して、「こういう製品、すごくないですか」「こういう製品、魅力的ではないですか」ということをたくさん言っているわけです。
だから、たくさんの新しい取り組みをやってみて、その中には失敗もある、というくらいで行っていかなければいけません。 「この製品は絶対当たるはず」といって百発百中で実現するのは難しいと思います。
つまり、1つは、世の中に明るい方向性を大きく打ち出すものには失敗がつきものだということ。もう1つは、ある程度時間がかかるということ。短期的に「明日売れるものを」「今期とにかく売り上げが立つものを」という話になってくると、なかなか大きなニーズをつくり出すものはできないでしょう。
どうしても短期的な収益を確保することが経営者の至上命題になっており、それぞれの経営者はそれによって自分の評価が決まってくるところもあったので、割と短期的・短視眼的なところに投資の意思決定が向いてきたという傾向があります。もう少し中長期的にじっくり製品を育てていく。人材もじっくり育てていく。こういう姿勢が求められてくると思います。
●中長期的な土台作りを消費者へ積極的なアピールすべし
―― 製品開発をじっくり行う、人材開発をじっくり行うことは、本来の日本企業はそうだったと思うのですが、なぜそうではなくなってしまったのでしょうか。
柳川 しっかり行っている会社も当然あると思います。ですが、全体的にはかなり競争環境が厳しくなってきた中で、そういうものの優先順位が低くしながら生き残ってきたということではないでしょうか。
そうすると、ではもっと競争を少なくすればいいのかという反論が出てくるのですが、必ずしもそうは思いませんし、そういう環境が作れるわけでもないでしょう。競争が厳しいからこそ、じっくり将来に向かって投資をしていくスタンスが大事です。何が本当に企業にとって大事なのか、捨ててしまってはいけないものは何なのか、ということをしっかり考えていくことで、長期的な育成や投資が出てくるのではないだろうかと思います。
また投資家、あるいはマーケットに対しては、そういう姿勢をしっか...