●食事とストレスマネジメントでテロメアを伸ばす
では、人にはどうかということですが、アメリカに、ディーン・オーニッシュという先生がいて、この方はクリントン元大統領の心臓病の主治医です。実は、動脈硬化や、アメリカ人に多い、いわゆる心臓のショックである心筋梗塞が食事とストレスマネジメントをすることで、予防できることを始めて示した方です。
前立腺がんになった方を対象に、食事を、いわゆるアメリカ型のバーンとしたステーキやポテト、動物性の脂の多いベーコンなどといった食事ではなくて、いわゆる地中海式のオリーブ、野菜、魚を入れた食事に変えて、ストレスをマネジメントする治療を継続した場合、左側と右側を見ていただくと、左側がそういうことをしなかった方ですが、それに比べて右側の方では棒が伸びています。これはテロメアを再生する酵素の量が増えていることを表しています。すなわち、体に良いものを食べることと、ストレスをマネジメントすることがテロメアを伸ばすことが、がん患者さんでも証明されたことになります。
また男性の場合、このテロメアの長さに関係する重要なファクターとして、ホルモンがあります。特に男性ホルモンであるテストステロンが高い人のほうが、テロメアが長い傾向にあることも分かっています。テストステロンの重要性については、このテンミニッツTVの中で何回かお話させていただいているので、ご興味のある方は是非ご覧いただければと思います。
実際に、白血球に男性ホルモンであるテストステロンをふりかけると、白血球のテロメアが伸びていくことが実験的にも観察されています。
●テロメアの長さは免疫力にも関わっている
また、免疫細胞はもう一回新しい細胞が出てくるのですが、免疫細胞が分裂していくうちにテロメアが短くなると、免疫応答しにくくなります。これを「免疫細胞の疲労」と言って、そういう現象が起こることが分かっています。
すなわち、テロメアが長い状態の免疫細胞であれば、コロナへの抵抗力がありますが、テロメアが短くなってしまった免疫細胞がコロナウイルスに出会うと、そういう細胞がすぐ減ってしまうことも、今回のコロナ禍の中で分かってきています。
例えば、これは米国における白人、黒人、ヒスパニックの男性と女性の方のテロメアの長さを示しています。上が男性です。年齢ごとに45~85歳まで書いていますが、男性においては、青い線の方、すなわち白人の方のほうが、黒人やヒスパニックの方よりも一貫してテロメアが長いのです。これは白人の方のほうがテロメアを伸ばす生活習慣をしていることになります。
女性の方は見ていただくと、55歳を境に、白人と、ヒスパニック、黒人とが逆転しています。55歳前は、実は黒人とヒスパニックの女性の方のほうがテロメアは長いのです。理由の一つは、アメリカの場合、ほとんどの白人の女性は、仕事をしているので、ある程度まではやはりストレスも結構多いです。おそらくその結果として、テロメアが短いのかもしれませんが、55歳を過ぎてくると、やはりヒスパニックと黒人の方の方が、急激にテロメアが短くなっていきます。アメリカにおいてもご存じの通り、ヒスパニックや黒人の方のほうが、コロナが重症化することが多く示されてきましたが、実はこれもテロメアの長さを反映している可能性があります。
●マインドフルネスやエクササイズでテロメアを長くする
先ほど、リラクゼーションという話をしましたが、やはりストレスを軽減するためには、副交感神経を高めて、リラックスをすることが大切です。いわゆる鍼やお灸、気功や太極拳、ヨガ、坐禅、温泉に入る、あるいは美しいものや、快いものに見たり触れたりすることによって、副交感神経を高めることが、やはりテロメアを伸ばす大きなポイントになります。
例えば坐禅では、最近ではマインドフルネスが非常に話題になっていて、これについても研究がなされています。
右のパネルは、少しゴロゴロした場合の単なるリラックスです。当然そういうアクティビティをしても、テロメアを長くする働きは見られません。一方で、左側の図はメディテーションをした場合です。その前後を調べると、瞑想をしっかり行うことによって、テロメアの長さを長くすることが分かっています。
また、ヨガのような体操やエクササイズは、有酸素運動のよう...