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歴史観と文化にみるウクライナ人とロシア人の大きな違い

プーチンのロシア―その思想と戦略―(4)ロシアとウクライナの歴史観

山添博史
防衛研究所 地域研究部 米欧ロシア研究室長
情報・テキスト
ロシアによるウクライナ侵攻の背景には、ロシアとウクライナ両国の歴史観の違いがある。自由を求めるウクライナと、支配の論理を振りかざすロシアの溝は、プーチン政権の下でますます深まっている。今回の武力行使は、焦りを感じたプーチンの失敗なのか。(全6話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:35
収録日:2022/03/04
追加日:2022/04/20
カテゴリー:
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≪全文≫

●ロシアとウクライナでは歴史観に大きな違いがある


―― 例えば、実際にはウクライナの場合、ウクライナ人なのか、ロシア人なのかということもあるので、歴史意識について先ほどの図でご説明いただきたいと思います。ロシアの歴史からして、この場合ではウクライナですが、独立なのか、一緒なのか、そこはどう見ていけばいいのでしょうか。

山添 ロシアとウクライナが兄弟だという言説ですが、これはソビエト連邦の時にもかなりあったはずです。そのことは、現代と、最初の祖先であるキエフ・ルーシを一緒くたにしているといいますか、歴史をかなり飛ばしてしまっている話です。

 ロシア連邦になっている今の政権は、さかのぼっていくとモスクワ出身です。モスクワはキエフ・ルーシの一族であり、その王族ではありますが、日本でいえば(かつての)源氏の大名である東国の者が、そこで強くなっていくようなものです。しかもモスクワは、キプチャク=ハン国といわれるモンゴル人の支配を経て、周りのカザン=ハン国などといった多民族を統合していく過程で、東側の世界である中央ユーラシアにある遊牧帝国を支配するという論理を持って中央集権的な帝国になり、それがロシア帝国になってきています。

 実はそういう歴史をウクライナは共有していません。ウクライナはキエフ・ルーシのあとは、いくつかの諸侯に分かれていました。そのいくつかはポーランド=リトアニアの下に入っているのですが、そうした状態が何百年も続いていました。有名なのは、1648年にポーランドに対して反乱を起こしたボフダン・フメルニツキーという人で、ウクライナ・コサックです。彼らに代表されるように、今につながるウクライナの国民意識やナショナル・アイデンティティの背景には、こうした「自由を求めて戦う、立ち上がる」という歴史があります。それは、今のロシアの統治勢力とは少し違います。それを受け継いで、ロシア帝国の末期や、ソビエト連邦の一時期など、モスクワの権力が及ばない時にウクライナには何度か独立勢力ができています。それを結局はモスクワが叩きつぶしてきました。

 今プーチンが考えていることは、ウクライナは叩きつぶすことで統合されるのであり、これまでの歴史がそうだったという意識ではないかと思われます。それは実は、「われわれは自由であり、独立して、モスクワの言うことは完全には聞かないし、ロシアとは全然違う伝統を持っているのだ」というウクライナの考えを生み出してもいます。実はポーランド語のほうがウクライナ語は近いという意識を持っている人もかなりいます。そういった、モスクワのロシア語とは違う、ロシア人とは違うという意識が歴史上かなりあります。それが2022年には、とても大きなギャップとして現れているのです。


●ロシアとは異なる歴史を辿ってきたウクライナの物語


―― ロシア人からすると、キエフは京都のようなものであるとマスコミなどでよくいわれることがあります。図を見ていると、例えば「モンゴル軍の侵攻が1237年」と出ていますが、モンゴル人の支配下に入ったらどうかも含めて、日本でいうところの京都と関東のような違いというより、文化に根ざしたかなり大きな違いがありそうですね。

山添 はい。やはり辿った歴史が日本の歴史と比べてかなり違います。ポーランド=リトアニアはカトリックの国なので、やはり西とは文化的につながっています。そこのもとの貴族であったウクライナ人やベラルーシ人もいます。そういう人たちの子孫でもあるのが、今のウクライナの物語です。

―― あと、よく指摘されるのが、スターリンの時代にいわゆる飢餓輸出がありますが、実際にウクライナの豊かな農民である富農にもう飢え死にするぐらいの非常に過大な税金を課して、そのお金で重工業化していったので、相当の方が亡くなったという歴史もあるということです。そのあたりに対する遠い怨みなどもあると理解していいですか。

山添 そうですね。スターリンへの怨みとして今でもモスクワに対して持っているかどうかは別として、ウクライナの独自の動きはモスクワに抑圧されやすいという危険意識をウクライナ人は持っているはずです。

 そして、今もし簡単にモスクワに従うようになったら、本当に何をされるか分かりません。京都のようなものといいますが、われわれは京都と一緒になりたいというときに京都を爆撃するでしょうか。本当に「一緒になりたい」とプーチンは言っていますが、そのやり方は完全にウクライナを踏みつけるものです。 何人かの人が「これは家庭内暴力と同じだ」と言っています。好きなのに一緒になってくれないので殴り続けるというのは、かなり屈折した感情です。そんなところにはウクライナ人は到底ついていけません。

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