●開発者だけではなく、経営者としても優れていたジョブズ
―― 皆さま、こんにちは。本日は桑原晃弥先生に、スティーブ・ジョブズについてお話を伺いたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
桑原 桑原と申します。よろしくお願いします。
―― ジョブズというと、非常に人気が高い経営者で、アップルを創業して、さまざまな製品をつくりました。最初に、彼の凄さは何にあるのかを教えていただけますか。
桑原 ジョブズについての皆さんのイメージは、iPodに始まってiPhoneなどの世界を変える製品をつくりあげたことだと思います。パソコンもジョブズがいたからできたものである、とはっきり言っていいと思います。
そういうすごい製品をつくった人というイメージがとても強いのですが、実際には、ジョブズはすごい製品をつくるだけではなくて、すごい会社をつくることにも生涯をかけてきました。そういう経営者だと思っています。
アップルは、彼が20代のときに創業した会社です。その後、一時アップルを離れることになり、10年あまりの雌伏のときを経て、もう一回復帰します。アップルはもともと倒産寸前の会社でしたが、ジョブズが亡くなる直前には、世界一の時価総額企業に変わり、大変な成功を収めます。
ジョブズが亡くなった後、アップルの時価総額は100兆円、200兆円、300兆円という形でものすごい成長を続けていきます。それこそがまさにジョブズが望んでいたことで、そういうすごい会社をつくる、すごい会社で一生懸命すごい製品をつくる、そして一生懸命頑張る社員がいる会社を創りたいと思っていました。それを一生懸命やっていたのがジョブズで、その結果がすごい製品であり、すごいイノベーションであり、そしてすごい会社です。それがまさにジョブズのすごさだと思っています。
―― どうしても製品などのイノベーションのすごさに注目しがちなのですが、組織人、経営者としても非常に類い希なる才能を持っていたということですね。
桑原 そうですね。会社が何のために存在するのか、会社にとって大事なのは何なのかを非常に若いときから知っていました。これは勉強したわけでも、誰かに教えられたわけでもないので、非常に感覚的なものだと思います。やはりすごい会社では、社員が社会のために役に立つすごい製品を一生懸命につくります。そういう頑張れる会社、それをトップが一生懸命支援できる会社、そして永続する会社をつくりあげたことが、ジョブズがすごい製品をつくることができた一番の理由だと思います。
―― ありがとうございます。このシリーズ講義では(2話目以降で)その秘密について順次迫っていきたいと思います。
●養子であることによるアイデンティティ・クライシス
この講義の内容は、最初に概要講義として、ジョブズが何を変えたのかから始まります。次に深掘りとして略歴、会社のつくり方、「すごい製品」のつくり方、イノベーションの起こし方、才能の引き出し方、そして、「お金に潰されない」生き方についてお話いただきます。「お金に潰されない」生き方というのは、いかにもジョブズらしくて、なかなか面白いところだと思います。あとは、なぜあそこまで人を惹きつける、魅了する生き方ができるのかについてです。また、最近のジョブズはやはり禅の影響が強かったということで、それについても聞いていきたいと思います。
まず概略ということで、ジョブズの生涯をざっと見ておきたいと思います。ジョブズは1955年に生まれ、2011年に亡くなりました。詳しくは深掘りでお聞きするとして、ここでは簡単に、ジョブズの生涯に触れていきたいと思います。どこが注目点になりますか。
桑原 ジョブズの人生は大きく3つに分けて考えることができます。やはりジョブズの人生観に一番大きな影響を与えたのは、この年表の最初にあるように、生まれてすぐに養子に出ていることです。このことは後々、ジョブズに大きな精神的ダメージを与えます。
しかし、自分は養子になって良かったということを、ちょうどアップルを創業する頃に気づいて、以後はアップルという会社を大きくするために、そして自分の好きなことをやるために一生懸命やっていきます。特に父親となったポール・ジョブズは、美しい製品をつくることに非常に大きな影響を与えていて、最終的には自分は素晴らしい両親のもとに生まれたと言っています。このように養子であったということがまず1つです。
それから以後は、アップルを創業してから、30歳の時に1回追放されています。その後、1996年に復帰しますが、追放されたときに、その後どういう道に進むか、ジョ...