●親から離れるために、リード大学に進学する
―― 続いて、「ジョブズはなぜ「禅」に魅せられたのか」ということです。
いよいよ禅のお話です。最初の言葉が、大学に入学したことについてです。1番目が、「自分には親なんか必要なかった。ケンタッキーから来たみなしごみたいになりたかったんだ。人生はいったい何なのか、その答えを見つけたかったんだ」ということです。
桑原 ジョブズの場合は成績も良かったですし、普通だったら地元のスタンフォードに進むと思うのですが、親から離れたかったとものすごく言っています。友人のジョン・コトケによると、この当時のジョブズはまだ人生に悩んでいて、自分は何者かをものすごく模索していたと言っています。非常に悩んだ末に、親元から遠く離れた場所にあえて進んだのだと思います。
―― 2番目が、「ロバート・フリードランドのように、悟りという境地が存在していることをはっきり確信している人に出会ったのは初めてだった。そのことに感激し、すごく好奇心をそそられた。しかし、実際には「正真正銘の山師」だった」ということです。
桑原 これは、リード大学に主(ぬし)のように存在していた人間です。いろいろな悟りのことや、宗教的なことを非常に説明してくれて、最初はこの人間に惹かれたと言っています。最初は少し魅せられたのですが、しばらくして、とんでもない奴だということが分かります。リード大学はそういう人たちが集まってきやすい大学だったといえると思います。
―― リード大学を選んだのは、ジョブズ自身も必ずしもそういうものに興味があったからというわけでもないのでしょうか。
桑原 おそらくですが、文化的な大学なので、エンジニアなどで目指すわけもなく、またどこかの企業を目指すわけでもありません。また、ハーバード大学へ行って金融機関へということでもなく、まだ何者になりたいかが本当に分かりませんでした。そうした中で一番興味があったのが、そういう精神的なものだったのでしょう。
●仏教に興味を持ち、禅の思想に魅了されていく
―― 続いて3番目です。大学時代です。図書館で仏教関係の本を読み漁って、禅に魅せられるようになっていきます。この言葉が「禅は知的理解よりも体験に価値を置いていた。僕は知的、抽象的な理解より、もっと意義のあるものを発見...
(桑原晃弥著、藤原東演著、PHP研究所)