●自分が欲しいもの、つくりたいものをつくる
―― 続いて、今度は「すごい製品」のつくり方です。
まず1番目の語録ですが、「僕は、年をとるほどモチベーションが大事だと思うようになった。アップルが勝ったのは、僕ら一人一人が音楽を大好きだったから。みんなiPodを自分のためにつくったんだ。自分のため、あるいは自分の友達や家族のために努力するなら、適当をかましたりしない。大好きじゃなければ、もう少しだけ頑張るなんてできない」です。
桑原 これはApple創業の頃から変わらないジョブズのものづくりに対する姿勢です。最初のアップルⅠにしても、スティーブ・ウォズニアックというコンピュータオタクが自分のためのコンピュータをつくります。
Macもそれと同じです。つくっているときにMacチームにいた者誰もがしきりに言っていたのは、「自分の友だちが、今はお金がなくて買えないとしても、買いたくなるようなパソコンをつくる」ということです。当時のジョブズは、世の中にある製品が気に入りません。例えば音楽機器や携帯電話にしても、自分はもっとすごいものがつくれるということで、iPodやiPhoneをつくりました。とにかく自分が欲しいもの、自分が使いたいもの、自分が大好きなものをつくるという思いがとても強くて、それがあるからこそすごいものができるのだということです。
企業の中でよくあるのは、企業の規模が小さいときには、そこで働いている社員の方は、そこでつくっている製品が大好きで、みんながそれを使っています。ところがだんだん大きくなるに従って、それは仕事になってしまって、自社の製品を使っていますかというと、もう使っていない、あるいは、あまり興味がなく、仕事と製品が切り分けられてしまうのです。そうなってしまいがちなのですが、ジョブズはそれをいつまでも追い続けました。それがあるからこそ、すごい製品がつくれるのだと思います。
―― これは発想としては、マーケットインとはまた全然違います。
桑原 そうですね。あくまでも自分であり、自分たちが起点です。
―― 自分たちが良いと思うものをつくるということです。
桑原 そうですね。
―― 2番目は、「僕らは誰のためでもない、自分自身のためにつくったんだ」です。まさに上の一番と同じことですね。
桑原 同じです。ジョブズは新製品に関しては市場調査をほとんどしない人です。もちろん、出てからは市場調査をやりますが、出る前の市場調査は全く信用しません。自分がつくりたいもの、自分が使いたいものが正しいという強い思い込みがあります。そのため、初期アップルの頃はそれにまだ多少のズレはあったと思いますが、二回目アップルのときには、ジョブズファンやアップルマニアが強烈にいて、信奉者が増えました。そして、それがまたすごい製品の開発につながっていきました。
●「これが欲しかった」と思わせる製品をつくる
―― 3番目が、「『顧客が望むものを提供しろ』という人もいる。僕の考えは違う。顧客が今後、何を望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。欲しいものを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんて分からないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ」です。
桑原 ジョブズにとって、すごい製品は、やはり模倣からは生まれないという考え方があります。模倣からも生まれないし、市場調査からも生まれません。もちろんそれを否定はしていないのですが、自分の仕事は自分がその製品を出したときに、「これが自分は欲しかったのだ」と人びとに思わせることです。スマートフォンが出る前は、別にそんなものを欲しいとはみんな思っていませんでした。
―― 普通の携帯で良かったわけですね。
桑原 携帯の進化の中でやっていたのですが、あれ(スマートフォン)が出てきた瞬間に、「ああ、これが欲しかった」と思います。それをつくるのが自分の仕事だということでいくと、ある意味では、ジョブズ自身はエンジニアではないのでしょう。非常に美意識の高い、永遠の素人的なところがあります。偉大なユーザーであり、自分が本当に欲しいもの、使いたいものをつくります。
あとは、自分は誰よりもみんなを分かっているという強い自負心があります。よく言っていたのが、「ものをつくるときは、誰かが卓越の基準にならなければいけない。それが自分の役目である」ということです。こういうものをつくるのだという強い意志があり、それが時代とフィットしていったことが、ジョブズのすごい製品につながったと思います。
―― ある意味では、先ほども名前が出た、井深大さんも、...