●すごい製品をつくることが会社の役目である
―― ここまで、ジョブズの生涯について見てきました。そこでは会社が永遠に続くというメッセージがありました。次に見るのが、「スティーブ・ジョブズに学ぶ 永遠に続く会社のつくり方」です。以下、ジョブズの語録を追っていきます。
1番目の語録は、「僕は、いつまでも続く会社をつくることに情熱を燃やしてきた。すごい製品をつくりたいと社員が猛烈にがんばる会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん利益を上げるのもすごいことだよ。利益があればこそ、すごい製品をつくっていられるのだから。でも原動力は製品であって利益じゃない」という言葉です。
桑原 そうです。この「すごい製品をつくる」というのが、やはりジョブズにとっては全てだったのだと思います。
―― それが喜びなのでしょうか。
桑原 そうです。子どもの頃、ラジオなどいろいろなものをつくれるヒースキットという子ども用の玩具がありましたが、アメリカのGAFAの経営者は皆、子どもの頃それで遊んでいます。「この宇宙にあるものだったら僕は何でもつくれる」という言い方をしているのですが、そういうものをつくりながら、ジョブズはいつもそう思っていました。ものをつくることがとにかく大好きなのです。
ただし、つくるときに、ジョブズの場合はそこにエンジニア的な発想ではない独特の美意識があります。その美意識がやはりすごく影響していて、単に売れるとか、儲かることよりも、世の中を変えられるぐらい美しいもの、すごいものをつくりたいという思いがまず一番にあって、それをやるのが会社なのだということがジョブズの原点だと思っています。
―― これは日本の会社の製品にもどうしてもあることですが、機能をつけて喜ぶところも無きにしも非ず、です。ジョブズの場合はそうではないのですね。
桑原 そうですね。ジョブズがずっとやっていたのが、まず模倣を嫌うことです。よそと同じものはまず絶対につくりません。それから、とにかく値段が高い、あるいは安いという問題ではないということです。どちらかというとアップルは高いほうになると思います。すごいものをつくるためにまずその二つがあり、それをつくる会社とは何だろうと考えたのだと思います。
―― そこが永遠に続く会社の1つの肝になってくるということですね。
桑原 そうです。すごい製品をつくるだけであれば、たぶん非常に少人数の中小企業でも良いと思います。永遠に作り続けられるもの、社会に影響を与えられるもの、それが会社であり、そういう会社を自分はつくりたいというのがありました。それがやはりアップルという会社につながっていったのではないかと思っています。
―― そこが本当に発想としてもすごいところですね。自分の好きなものだけつくりたいのであれば、今おっしゃったように小さい会社でも良かったはずです。しかしそうではないということですね。
桑原 あるいは、どこかの会社に入ってエンジニアで働いてもいいわけですが(そうしなかったということですね)。
●社会に影響を与え、後世に続く会社づくりを目指す
―― 2番目の語録です。「一世代あるいは二世代あとであっても、意義のある会社をつくるんだ。それこそウォルト・ディズニーがしたことだし、ヒューレットとパッカードがしたこと、インテルの人々がしたことだ。彼らは後世まで続く会社をつくった。お金が儲かるだけじゃなくてね。アップルもそうなってほしいと僕は思っている」ということですね。
桑原 驚くのは、こういったことを20代の頃から言っていたということです。
―― これは20代の言葉なのですね。
桑原 そうです。ジョブズというと、どうしても20代の頃はわがままであるなど、若い暴君であるとか、経営者失格といった見方をされることがありました。非常に早い時期のそれこそ追放前の頃に、やはり自分の会社は売上がこのぐらいあって、なおかつ社会から尊敬される、あるいは社会に影響を与えられる、そういう魂のある会社をつくりたいという言い方をすごくしています。
魂のある会社がウォルト・ディズニーやヒューレット・パッカード、そしてインテルのことだと思っています。特にウォルト・ディズニーとヒューレット・パッカードは非常に尊敬しています。彼らがつくった会社のような、長く愛され続け影響を与えることのできる会社をつくることを目標としていました。
そのためには、単に売上が大きい、あるいは利益があるだけではないことにすごくこだわっていました。これはたぶん後々のマイクロソフトのビル・ゲイツとの軋轢に関係してくるのですが、そこでも魂ということをすごく語っています。ジョブズはやはりアップルという魂があり、すごい製品をつ...