●国際的ビジネスは後れを取ってはいけない
島田 小宮山先生がとても重要なことをいくつかおっしゃいました。日本が強くなろうとした時代は、今のG7が工業能力を持っていて、あとの国は全く持っていなかった。今は9割の国が工業能力を持っている。だから加工貿易という大戦略が成り立たない時代が来たとおっしゃった。その通りです。
もう1つは、小宮山先生がいつも言われることですが、自動車産業は国内販売が今、(年間で)500万台ほどですか。
小宮山 おっしゃる通りです。
島田 500万台で、平均の使用年数は5年ほどですか。
小宮山 最近は12~13年くらいです。
島田 では、6000万台ほどあるということですね。
小宮山 そうです。
島田 6000万台あるとどういうことが起きるか。日本の国内で(新たに年間)新車を500万台ほど作っても、これまでに6000万台と十分すぎるほど作ってしまっているので、それ以上売れる余地がこの国にはありません。このことを小宮山さんは以前から言われていて、他の産業でも同じようなことがいえます。これはとても重要なことです。
もう1つは、石炭・石油・天然ガスの時代は終わったということです。これは化石燃料といいますね。化石燃料が、地球温暖化も含めていろいろな問題を起こしてしまう。小宮山さんがおっしゃっているのは、化石燃料の時代から太陽の時代に移るべきではないかということです。
これは200年間の文明史なのです。国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が述べていますが、産業革命以前の気温から上昇幅を1.5度以内に収めないと、2050年には地球が壊れるだろうと。そこで、早く対策をするようにと言っています。このことは非常にたくさんの科学者が研究したデータで示していて、だいたいは正しいのです。ただ、小宮山流にいうと、産業界は本気ではやりたくないので動かないということです。
(ということで)、今、地球上の産業構造の分布が全く変わったということ、それから化石燃料ではなくて太陽の時代に移らなければ地球がもたないということがあり、これらを踏まえると大変なことになります。結局、200年間の工業化の基本的なエネルギー基盤を全て覆さなければいけない。これは、現状の産業はやはりやりたくないでしょう。だから、綱引きのようになっているのです。
小宮山 ただ、今はESG(Environment〈環境〉・Social〈社会〉・Governance〈ガバナンス〉)など、そちらの方向に向かわなければ国際的にビジネスができにくくなっている面があって、それは非常に大きいことですよね。だから、少し遅ればせながら、日本も動き出したという感じです。ですが、遅れて動き出すと損をします。だから先に動かなければいけない。それは、先にルールを作られてしまうからです。
島田 今、一生懸命ルールを作っているのはヨーロッパですよね。EUはおおまかに7年間の予算を決めている(多年次財政枠組み=MFF)のですが、その大半をDX(デジタルトランスフォーメーション)と環境に費やして、これで成長すると言っています。科学的基礎はあると思うけれど、彼らは本気ですよね。
小宮山 彼らは本気ですね。
島田 ルールづくりに積極的に入っていて、カーボンプライシングなど次々と行っています。日本は後追いなので大変ですね。
小宮山 そうですね。だから、今であればまだハイブリッドを使うことには非常に合理性があるのですが、早くEV化のほうに決めてしまうとなると、それに対抗するには、こちら(日本)もある程度進めていかないといけない。進めていると技術も上がるし、知識もついてきます。
島田 そうですね。
●森林、人材…日本には可能性がいろいろとある
島田 ところで、小宮山さんが言われなかったことですが、(日本には)良いことがいくつかあります。何かというと、例えば日本の森林についてです。森林は、地球上の陸地の3割ほどしかありませんが、日本は国土の7割ほどが森林なのです。
ところが、日本は戦争中に数多く木を切ってしまったので、戦後、天皇陛下までお出ましになって、次々に植樹祭をやったのです。そのうちに高度成長が始まり、円が強くなりました。そうなると、海外から買ったほうがずっと安いので、日本の木を切らなくなってしまいました。だから今は、床屋さんに行かずに髪の毛がボーボーになっているような状態になっています。
だから、実は森林の8パーセントを使えば、1年間で使う森林エネルギーは全て供給できるのです。一切植樹をしなくても十数年は保つというほど世界で最も優れているのに、日本は全く使っていないのです。
小宮山 これに関しては今、本気で始めています。最近の力強い動きとしては、化学系の会社が「石油化学から木材化学へ」ということで動いています。要するに、石油は使え...