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ロシアの野望に対する「抑止」に失敗した欧米の教訓

日本の外交防衛政策…家康の教訓(3)ウクライナ侵攻と欧米の責任

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
なぜロシアの野望に対する「抑止」を欧米諸国は失敗したのか。「民主主義の浸透は絶対に許さない」というプーチン氏には、ユーラシア国家としてのロシアの窮状回復と将来に向けた新しい国家の創設、それを阻止するものへ対決姿勢を見せるという一貫性がある。そのことを見誤った責任と「抑止」について、日本に必要な自己防衛の努力と合わせて論じる。(全4話中第3話)
時間:13:05
収録日:2022/12/26
追加日:2023/02/28
≪全文≫

●欧米や日本が静観し続けてきたロシアの動向


 皆さん、こんにちは。プーチン氏が、何を目的としているかというのは、なかなか分かりづらいところもあります。基本的に、彼が民主主義を認めてないということは、第一に確認することです。民主主義というルールがロシアの国内に浸透し、そしてそれがロシア社会のものの考え方になるということを、彼は許さないのです。この決意というのは、国内的に大変大きな彼の信念です。

 今回のウクライナへの侵攻を見るにつけて、第1にプーチン氏が民主主義の浸透は絶対に許さないということ、またロシアの独自の地政学的な利益があるということ、そして3番目に、その歴史と地理、文学、芸術、思想等に貫かれたロシアの独自性ということ。つまり彼の利益、ユーラシア国家としてのロシアというものの窮状回復、そして将来に向けた新しい国家の創設、このようなことを阻止しようとするものについてはきちっと対決していくという気構えは、実は一貫していたのです。

 欧米、日本も含めて、そういうサインをきちっと見てこなかったのです。したがって、簡単にいうと、NATOも含めた欧米、あるいは日本とアメリカ、そういうアジア太平洋の中の民主主義的な諸国による、ロシアの野心・野望に対する抑止は失敗したということなのです。

 なぜ失敗したのか。そして、きちっとサインも出していたのに、それに関して西側の欧米、あるいは日本は、ロシアの行為に関して非常に寛大でしたが、それを放置、あるいは軽視すればどうなるか。例えばロシアによるチェチェンの侵攻、2回にわたる大きな戦争、それに対して非常に冷淡でした。

 シリアに関しても、シリアにロシアがイランとともに公然たる干渉を行い、そして、シリアの民意として出てきたアサド政権打倒というスタンスに対して、ロシアは直接、アサド政権を支持するのみならず、イランもそうですが、特にロシアの場合は空軍、海軍を動員し、イランの場合は陸軍、革命防衛隊、陸上兵力を動員して民主化の動きを完全に粉砕して、現在は国が焼土と化しても、とにかくアサド政権は守られるという形になっています。

 その間、それぞれ性格が違いますが、オバマ政権は、レッドラインを突破すればアメリカの重大決意があると言いました。そしてトランプ政権は、オバマ氏のように口先だけでは言わないでやるぞと言って、たしかに形ではアメリカがそういう攻撃を一部しましたが、すぐやめてしまいました。

 シリアでもロシアはきちっと瀬踏みをして、きちっとアメリカの出方がどこまでなのかということを見てきました。そういうことを見計らって、グルジア(現ジョージア)に対して、黒海から、あるいは陸上から侵攻したということです。

 黒海にもアメリカは、海上勢力、兵力、NATO艦隊の一部を派遣しましたが、結局何もしませんでした。グルジアでも何もしませんでした。そして、それではということでクリミアに対して侵攻しました。かつてクリミア半島、セバストポリを中心にロシアの基地が置かれ、今も一部には協定によってロシアの基地が置かれています。一方で、そうしたロシアの利益も考えなければいけないということもあって、ウクライナがむざむざと、クリミア半島を奪われるのを座視しました。

 こういう一連の流れの中で、チェチェンやシリアであれば、これはまったくヨーロッパの外で、ロシアからも離れたところです。まさに遠く離れた国ということで、無視することができました。

 しかし、ジョージアとなりますと、これは旧ソ連を構成していた国であり、ロシアとの関係が非常に悪くなり、かつ、NATOやEUへの加盟を希望し、西側への援助を求めていた国です。また、彼らはそういう西側の一員として生きようとしたのですが、それは果たされませんでした。

 ウクライナと、ウクライナの一部であるクリミアに関しても、その歴史がそのようにロシアに誤解されることになりました。すなわち、ロシアに誤解をさせるようになったという意味です。つまり、こういう一連の武力行使の流れで、ウクライナの重要な領土の一部であるクリミア半島を占領したのにも反応しませんでした。


●ロシアのウクライナ侵攻における欧米の責任


 その中で今度はウクライナがあるという流れは、プーチン氏には何のためらいも妥協もないのです。ところが、ウクライナ本体は、ジョージアやチェチェン、あるいはシリアといった国とは違う、防衛力、国防意識の高さが非常にあります。なんといってもロシアに対するウクライナのナショナリズムの強さです。ロシアによって併合されるという一種の悪夢を繰り返したくないということです。

 それから、大統領以下、国民に至るまで、結束して抵抗に出たことで今回の戦争は生じたということになるわけです。今回の戦争の大きな一つの教訓...
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