『「甘え」の構造』と現代日本
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『坊っちゃん』の借金問題から考える人間関係の基礎
『「甘え」の構造』と現代日本(3)人間の自立と『坊っちゃん』のエピソード
哲学と生き方
與那覇潤(評論家)
「輔弼してくれる人が欲しい」という学生からの相談の話が、『「甘え」の構造』の中に出てくる。土居健郎氏はそこから天皇論と結びつけて日本人の特殊性という方向へ話を進めていくのだが、一方、自立という観点からみると、このエピソードからは人間の普遍的な感情が浮かび上がってくる。そこで、もう一つのエピソードとして『坊っちゃん』が引用されるのだが、それを踏まえて提示されたのは、心理学という「心の理論」である。人間社会を支えてきた、非常に重要なその考え方に迫る。(全7話中第3話)
時間:17分54秒
収録日:2023年3月13日
追加日:2023年6月10日
≪全文≫

●「輔弼してくれる人が欲しい」という学生の相談が示すもの


 さて、『「甘え」の構造』という本が日本の特殊性を語っているようでいて、実は人間みんなに通じることを語っていたのではないか、ということで、その視点で見ると、その読み方が変わる代表的な箇所として、89ページに、土居健郎さんのクリニックに通っていた法学部の男子学生のエピソードが出てきます。

 なぜ面白いかというと、とにかく学生生活の中で悩むことがあって、いわば土居さんの診療を精神科で受けていたわけなのですが、この法学部の男子学生が、自分の今のつらい気持ちを「自分を輔弼してくれる人が欲しい」と土居さんに訴えたことです。こういう患者さんはなかなか来ないと思うのですが、自分を輔弼してくれる人が欲しいと、こういう言い方をしたのです。

 土居さんも書いていますが、この「輔弼」というのは、戦前の大日本帝国憲法で国務各大臣が天皇を輔弼するのであるという言い方で使われていた語彙です。つまり、戦前の憲法に書かれていた語彙なのですが、とにかくそれを使い、「自分を輔弼してくれる人が欲しい」と言って自分の生きづらさを土居さんに訴える学生さんが1971年の段階でいたわけなのです。

 ここから土居さんはどのように思考を展開するかといいますと、天皇というのは戦前と戦後で当然位置づけが変わった部分ももちろんあるわけなのですが、天皇というのは要するに、積極的に自分で決断してはいけない存在です。

 この国の方針はこうだ、というように、天皇が自分でどんどん選択して決断すると、何か間違ったときに天皇が責任を負わなければいけなくなってしまうので、天皇は基本的には周りの人に決めていただくのです。土居さんの表現を引きますと、「天皇は、諸事万般、もちろん国政に至るまで、周囲の者が責任を以て万遺漏なきよう取りしきることを期待できる身分である」ということです。

 つまり、戦前の用語でいえば、戦前の天皇を輔弼していた様々な政治家であったり軍人であったりが全て、これなら天皇陛下が恥をかくようなことは起きないでしょうというように輔弼して、いろいろなものを整えてくれて、天皇は、「うむ、そうであるか」と言うだけであるということです。

 したがって、土居さんの言葉で、「天皇はある意味では周囲に全く依存しているが、しか...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
現代人に必要な「教養」とは?(1)そもそも教養とは何か
教養とは…本質を捉える知、他者を感じる力、先頭に立つ勇気
小宮山宏
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留

人気の講義ランキングTOP10
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
日本の定年制はおかしい…ガラパゴス的で不幸を招く制度
出口治明
運と歴史~人は運で決まるか(1)ソクラテスが見舞われた「運」
歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える
山内昌之
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉