『「甘え」の構造』と現代日本
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
小津安二郎映画の「節度ある甘え」…持続可能な甘えとは?
『「甘え」の構造』と現代日本(8)小津安二郎の映画と「節度ある甘え」
『小津安二郎の芸術』(佐藤忠男著)という本が、『「甘え」の構造』と同じ1971年に出版されている。その本では、『「甘え」の構造』を引用しながら小津映画で描かれている「甘え」の美学について分析されているのだが、当時あったのは「節度ある甘え」だったという。しかし、刊行されてからの約半世紀で、「甘え」の実態は大きく変わってしまった。ではどのように移り変わってきたのか。あさま山荘事件と秋葉原事件という2つの象徴的な事件を挙げて「甘え」の変遷、その実態を追いながら、これから日本で求められていく「持続可能な甘え」について考える。(全8話中第8話)
時間:13分06秒
収録日:2023年3月13日
追加日:2023年7月15日
≪全文≫

●佐藤忠男が見いだした、小津映画の「甘え」の美学


 さて、そうした形で、実はもう1971年の時点で、強い家父長のようものは通用しなくなっており、日本人の家庭の中は良くも悪くもドライになり、家族といってもお互い他人で、だからぶっちゃけあまり甘えたりしません、というようになっているという変化が起こっていないかということを土居さんは指摘していたのです。

 この土居さんの理論を引用した、大変に興味深い書物が同じ年の1971年(12月)に出ています。ちなみに、土居さんの本(が出たの)は2月です。私は、映画監督の小津安二郎をめぐって『帝国の残影 ―兵士・小津安二郎の昭和史』という本を書いたことがありまして、その末尾の結論的な箇所でそれを引用しました。

 小津映画は今では世界中で見られており、世界で小津研究の本がいっぱい出ているわけですが、最初に1冊丸ごと小津安二郎を研究した本として書かれたのが1971年、『「甘え」の構造』と同じ年に出た佐藤忠男さんの『小津安二郎の芸術』という本でした。

 佐藤さんは、日本の戦後の映画評論の草分けというべき方で、近年亡くなられましたが、この本では世界で初めて1冊丸ごとかけて小津安二郎を分析しました。この佐藤さんの本で土居さんの『「甘え」の構造』がどう引用されているのでしょうか。

 小津安二郎という人は、特に戦後は家族映画を主題にしたわけなのですが、そこで小津安二郎が伝えたかったことは何か、いったい家族を通じて何を描こうとしていたのかということに関して、佐藤さんは土居さんの『「甘え」の構造』から一つ引用しています。小津安二郎の家族映画が描いているものは何か。それは、佐藤さんの文章では(こうありました)。

 「肉親に対する甘えを人一倍強く意識する人間が、その甘えに溺れることの危険を良く知っていて、甘えに過度にのめりこんでゆくことを厳しく自己抑制しようとする。その微妙な節度の意識から生み出されたもの」

 それが、小津安二郎という人の家族映画であり、芸術であり、美学なのだということを指摘しているわけなのです。

 つまり、家族同士だったら密接な付き合いがあって、それはある意味で本来遠慮がいらないはずの関係であって、甘え合っていいのだが、しかし、過度に甘えにのめり込み過ぎてしまうとそれはまずい。甘え合っていい...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
老荘思想に学ぶ(1)力のメカニズム
老荘思想は今の時代に人類の指針となる
田口佳史
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介
法隆寺は聖徳太子と共にあり(1)無条件の「和」の精神
聖徳太子が提唱した「和」と中国の「和」の大きな違いとは
大野玄妙
キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか
「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?
竹内修一

人気の講義ランキングTOP10
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために
質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?
中村彰彦
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か
ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係
西野精治
経験学習を促すリーダーシップ(3)成功の再現性と教え上手の指導法
教え上手の指導法に学ぶ!成功の再現性を高める4ステップ
松尾睦
グローバル環境の変化と日本の課題(6)組織改革と課題解決のために
働き方改革の鍵はエンゲージメント、経営者の腕の見せ所
石黒憲彦