『「甘え」の構造』と現代日本
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親ガチャと学生運動と桃太郎…葛藤なき家族のニヒリズム
『「甘え」の構造』と現代日本(7)桃太郎の鬼退治と「親ガチャ」
1970年代当時、過激化する学生運動を「桃太郎の鬼退治」という側面で捉えた土居健郎氏の『「甘え」の構造』。なぜ学生運動が鬼退治に似ているのか。その理由として挙げられているのは、「家父長的」な親の権威と「反抗期」「思春期」がぶつかりあった家庭内の葛藤が当時をさかいに薄れてきているのではないかという指摘である。そこで今、本書を読み直して思うのは、2020年代に流行った「親ガチャ」といった言葉である。平成をへて令和の時代をスタートさせた日本でいったい何が起こっているのか。刊行されて約半世紀、改めて本書から生かすべき教訓を考える。(全8話中第7話)
時間:10分33秒
収録日:2023年3月13日
追加日:2023年7月8日
≪全文≫

●過激化する学生運動は桃太郎の鬼退治という側面があるのではないか


 そして、土居さんは精神科医であったのでそこから非常に面白いことを言っております。この過激化する学生運動は、桃太郎の鬼退治という側面があるのではないかと、一見すると突飛なことを言うのです。具体的には、239ページあたりから出てきます。

 どうも土居さんは、桃太郎の鬼退治で過激な学生運動は説明できないだろうかというアイデアを、この本の(発売の)10年くらい前、1960年安保の時から持っていたようなのですが、1970年安保とも呼ばれた全共闘の過激な学生運動を目にして、ますますその確信を深めて、こういう観点で私は今の学生たちの過激化を捉えるべきだと思う、ということを書くわけです。

 ではいったい、学生運動はなんで桃太郎に似ているのかというと、これはやはり土居さんがフロイトの影響を強く受けていることがあります。

 これまでは、例えば若い人が生きてきて、なんらかの生きづらさを感じる。「俺は正当に扱われていないのではないか。この世の中は不当なのではないか」と感じたときに、家庭内で親にぶつけました。いわゆる「反抗期」とか「思春期」と呼ばれているもので、俺は正当に扱われていないぞ、おかしいぞ、なんで俺はこうなのだということを、まず家庭内で親とぶつかり合って、そのぶつかり合いを通じて成熟していったわけです。

 それはやはり、かつてはいわゆる「家父長的」と呼ばれるような親の権威のようなものが大きくて、親が家庭で子どもに対して、「お前はもっとこうあるべきなのだ」とプレッシャーを強くかけるからこそ、「なにくそ、なんで俺がそれに従わなければいけないのだ」という反抗が家の中で起こる。こうして家の中で個人が社会で生きていく上でのさまざまなぶつかり合いや困難を体験して、社会人になっていったというのが、これまでのあり方ではなかったかと土居さんは言うわけです。

 ところが、それがある時期から薄れてきている。つまり、「家族同士もぶっちゃけ他人でしょ」「親と言ってもたまたま親なだけでしょ」「子どもと言ってもたまたまこの家に生まれただけでしょ」と家族関係が希薄化して、よくいえば自由になっているのだけれど、悪くいうとドライになっている。そうすると、家の中で「これはどうなのだ。俺をもっと認めろよ」...

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