『「甘え」の構造』と現代日本
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
カミュ『異邦人』を考察…タイトルは『他人』と訳すべき?
『「甘え」の構造』と現代日本(5)カミュの思考実験と遠近法なしの社会
フランスの作家カミュに『異邦人』という小説がある。土居健郎氏は、正しい訳題は『他人』だったのではないかという問題提起をしている。そこには、ある種一つの思考実験としてカミュが描き出した問題を通して、人間関係と甘えについて考えるべき深い理由があった。そこから、身内から他人へという遠近法をなくしてしまう社会の危うさについて、コロナ禍の行動を取り上げながら考える。(全7話中第5話)
時間:9分04秒
収録日:2023年3月13日
追加日:2023年6月24日
≪全文≫

●カミュの『異邦人』を『他人』と訳すべきだった!?


 この点(前回お話しした「遠慮」についての人間関係の三重構造)でもう一つ申しますと、とにかくこの本は、「甘え」を手がかりに考えたいと思った土居健郎さんが、自分の思考のヒントになったものをずらずらと引用していく形で続くのです。

 58ページに、今度はフランスのカミュという作家(の話が出てきます)。新型コロナウイルス禍では彼の長編である『ペスト』が世界的に再読されることになったわけなのですが、このカミュの出世作として知られている『異邦人』という小説がございます。これが発表されたのは1942年、第二次世界大戦の最中です。日本では戦後に入って、1951年ぐらいに初めて日本語訳が出るのです。

 『異邦人』はフランス語で『L'Étranger(エトランジェ)』というタイトルが原題でありまして、英語でいうとストレンジャーです。これを日本では『異邦人』と訳し、その訳は定着しているのですが、『異邦人』という訳は違うのではないかという、結構面白いことを土居さんは言っておられます。ストレンジャーだから『異邦人』と訳すこともできるのですが、『他人』と訳した方が良かったのではないか。つまりカミュの小説も、正しい訳題は『異邦人』ではなく『他人』だったのではないか。ということを問題提起していて、これが深い問題提起ではないかと思うのです。

 なぜカミュの『異邦人』を『他人』と訳すべきだったと土居健郎さんは言うのでしょうか。まず、この『異邦人』を未読の方のためにざっくりご説明します。

 ある人物が、チンピラ集団同士の抗争のようなものに巻き込まれて、結果として人を殺してしまいます。つまり殺人犯になってしまうわけです。抗争に巻き込まれた結果、殺してしまったような形なのですが、死刑になってしまいます。なぜ死刑になるのかというと、この人が養老院に入れていたお母さんが死ぬところから始まるのですが、お母さんが死んだときも全くの無表情で悲しそうではなかったとか、お母さんの葬式をやった後に自分の彼女と何かのお笑い映画を観に行って、その後にセックスしていたとか、そういうことが状況証拠のように次から次へと検察側から持ち出されて、「こいつは人非人なのだ。もう社会から排除すべき人間だ」というようなレッテルを貼られて過度の量刑を言い渡...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一
キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか
「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?
竹内修一
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
津崎良典
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
黒田基樹
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか
「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?
竹内修一
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子