『「甘え」の構造』と現代日本
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恩は返さなくても取り立ててもダメ…山本七平と遠慮の意味
『「甘え」の構造』と現代日本(4)人間関係の三重構造と「遠慮」の世界
お互いが今、何を考えているか。居心地の良い社会を築く上でそれを推し量ることができる状況をつくることが重要だが、それを可能にするのが「慣習」だという。そこで、与那覇氏は『「甘え」の構造』の後に発刊された山本七平氏の『日本教徒―その開祖と現代知識人』を取り上げ、ある慣習から日本人を基礎づけるモラルを読み解いていく。しかし、実際に相手の心を推し量ることは容易ではない。そこで土居健郎氏は、人間関係を三重構造として考えることで、心が読み解けない他人とも共生してきた日本人の姿を捉えようとした。その議論のキー概念であり、現代社会で失われつつある「遠慮」について考察する。(全7話中第4話)
時間:10分05秒
収録日:2023年3月13日
追加日:2023年6月17日
≪全文≫

●居心地の良い社会を築く「慣習」と山本七平の日本人論


 さて、こうして、夏目漱石の『坊っちゃん』に出てくる借金の返し方に見られる人間の条件というところで、土居健郎さんの『「甘え」の構造』を読み解いてきました。

 相手が今どんな気持ちであるかが自分は分かるという状況をつくることが、人と人が一緒の社会で暮らしていく上では大事なのですが、おそらく、そういった状況を可能にしやすくするのが、例えば慣習といったものだろうと思うのです。

 つまり、「だいたい、こういうときは、こういうように反応することになっていますよ」という慣習がしっかりして、みんながその慣習に従って暮らしていると、「あの人もきっとそれを期待しているよね。あの人も内面ではこう思っているよね」ということが人間には予想しやすくなるわけです。

 これが、慣習というものが社会を居心地の良い場所にする上で大事なポイントであろうと思うわけなのです。この点で、まさに借金の返し方に関して、土居さんの『「甘え」の構造』は1971年ですが、1970年代にデビューして大きく活躍した山本七平という評論家は非常に面白いことを言っております。

 『「甘え」の構造』のちょうど5年後の1976年に出た『日本教徒―その開祖と現代知識人』(角川書店)という山本の本は、彼が平家物語を分析しながら、日本人はこういうものの見方をする人なのではないかということを書いているのです。

 山本いわく、平家物語に描かれている日本人のモラルというのは、恩は返さなければならない。恩を受けて受けっぱなしではいけない。恩を返さない人というのはよくない人だ。しかし一方で、恩を施した側も向こうが返してくるのを待たなければならない。積極的に「お前は俺に恩があるだろう、恩を返せよ」というように取り立ててはいけない。恩を返さない人も悪い人だが、恩を取り立てるやつも同じくらい、あるいはそれ以上に悪いやつだ。「恩は返さないのもダメだし、取り立ててもダメだ」というのが日本人を基礎づけるモラルではないか、と山本七平は論じているのです。

 つまり、源平合戦でなぜ平清盛が敗れて、源頼朝は勝ったのかというと、清盛というのは取り立ててしまう人なのです。例えば、後白河法皇などに、「あなたが権力を握れたのは誰の...

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