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G7&G20首脳の原爆慰霊碑への献花の深い背景と意義

「G7広島サミット」をどう読むか(2)慰霊碑献花と原爆資料館視察

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
2023年5月19日から21日まで開催されたG7広島サミットで、G7の首脳たちも、また、インドなどグローバルサウスの国々の首脳たちも、原爆慰霊碑に献花をし、また、原爆資料館(広島平和記念資料館)の視察を行なった。だが、そのなかには、米・英・仏・印など、核保有国も含まれている。この献花と視察が実現した背景に、どのようなことがあったのだろうか。また、このことの歴史的な意味とは、いかなるものであろうか。この広島サミットによって、日本外交の根本理念を世界に非常にわかりやすい形で示したというが、それはいかなることなのだろうか。(全2話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:01
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/06
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≪全文≫
―― そうしますと、やはり先生がおっしゃったように、「戦時下」の世界のなかで、どのような価値観を出すか。しかも、それを日本がまとめていったことの意味、そして広島という土地柄の意味が、象徴的にも非常に大きかった。そして、「過ちは繰り返しませぬから」と書かれた碑文に、各国の首脳が哀悼の誠を捧げるということも含めて、やはり、これは歴史的な大きな意味があった、というご分析でしょうか。

中西 何といっても、やっぱり広島の被爆地で開かれたサミットであったということですが、ここに至るまでには、いろいろな抵抗があったと思います。

 聞くところによると、もう何年も前に、オバマ元大統領が広島を訪問したことがありましたが、あのときは、オバマさんは、たしかに慰霊碑に献花はしたのですが、資料館には、実は「立ち寄った」といわれていますけれども、アメリカでは「あれは時間の調整のために、休憩の場所として、東館の一角のロビーに、たまたま腰かけた」というようなことでした。アメリカ国内では言い訳的なことですけれども、「オバマは日本に行って、原爆投下を謝罪したのか、けしからん」という右派の批判論を非常に気にした訪問だったのです。そういう意味では、オバマさんは核廃絶でノーベル賞までもらっている人なのですが、やはり、アメリカのあいまいな立場を示してしまったということですね。

 ところが今回は、バイデンさんは、ほかの代表と一緒に、G7諸国首脳とともに、献花し、資料館を視察した。しかも、「われわれは核廃絶に向かって、強い信念をもって進まなければならない」と、オバマさんよりも強いコミットを示したといえますね。

 それはやはり、G7という大きな枠組みがあったからでしょう。バイデンさん一人の訪問であれば、なかなかやっぱり、アメリカの世論の現状を考えれば、あそこまで踏み込むことはできなかったかもしれません。聞くところによれば、他の首脳よりも長時間、バイデンさんは展示物を見て回って、非常に深刻な表情で、核の恐ろしい惨禍をあらためて実感されたようです。

 そういったアメリカ、あるいはイギリスもフランスも核保有国です。そういう国々がおそらく最初に示した、水面下で日本政府に送ってきたシグナルは、ネガティブなものだったと思います。広島開催は呑むとしても、「慰霊碑、あるいは資料館は勘弁してくれ」、あるいは「オバマレベルで止めておいてくれ」というくらいの反応を示しているはずです。

 また、インドのモディ首相も、核保有国ですよね。「日本がそういうことを言い出すのは、謝罪あるいは核廃絶に向けた言質を要求してくるのではないか」というような疑心暗鬼にとらわれている核保有国は、私はあったとおもいます。

 そこを押して、乗り越えて、説得し、彼らを広島に招き、献花をさせ、資料館訪問を実現した岸田首相の功績は、やはり日本外交の功績として大きかったと思います。歴史的な、日本外交史に残る決断、あるいは努力だったと思います。

 これは、時代が経ってみないとわかりません。けれども、岸田首相という人は、先日のウクライナ訪問(2023年3月21日)でもそうでしたが、思い切ったことをされる。飄々(ひょうひょう)とした表情でもって。おそらくは安倍政権より大きな決断を、岸田さんはわずかな期間のあいだにやっておられると思います。

 これは話が少し脇にそれるようで恐縮ですが、エネルギー問題では、やっぱり再生可能エネルギーがドイツ並みに非常に高いレベルで、電源に占める割合を高める軌道に乗るまでは、「原発の最大限利用」という岸田政権が示した方針は間違っていないと思いますね。これはやっぱり、安倍政権でも菅政権でもためらってきたことですから、よくやれたものだ、しかも飄々(ひょうひょう)として。

 それから昨年の安保三文書、いわゆる敵基地攻撃能力・反撃能力も含めて、防衛費の倍増を意味する防衛費GDP2%の決断に大きく踏み切った。これも大きかった。安倍政権の安保法制の制定と軌を一にするというか、勝るとも劣らない、日本の戦後の安全保障政策の歴史に大きな一歩を刻むような決断になったと思いますね。

 岸田首相という人は、本当にそうは見えないのですが、あのスタイルがうけているのか、それとも運の強い人なのか、あるいは少し辛口にいうと、チャレンジ精神が成功につながっているのか、まあ、わかりませんけれども、こういうことは、政治の歴史では、ときどきあることですね。

 そういうことで今回は、核の問題を含め、また、ゼレンスキー大統領を日本に招いた勇気ある日本外交。そしてG7先進諸国と、グローバルサウスの両方の溝をつないでいく役割として、日本はよく頑張った。岸田首相のインド訪問、アフリカ訪問、東南アジア歴訪と、今年に入って本当にめまぐるしい訪問外交...
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