●脳の中には4つの情報伝達の方式がある
これまで、ニューロンがシナプス伝達によって情報伝達している仕組みについて学んできましたが、これは、例えていうと、電話線のように「一対一のコミュニケーション」ということができます。ところが、脳の中には「一対一」だけではなくて、「一対多」や「多対多」のような情報伝達の仕組みもあります。
大きく分けると、4つの情報伝達の方式があるといわれています。まず1つ目は、(a)のように、シナプスによって限定された標的ニューロンが活性化されることによって、信号を伝える方式です。この方式では、信号の持続は短期間である必要があります。次に、(b)の図に示すように、一つの細胞が血液中に特定の物質を放出することによって、下流にある多くの標的細胞を活性化する方法もあります。これは、例えばホルモンを使ったやり方があります。
次に、(c)のように一つの細胞の活性化が多くの器官や臓器を同時多発的に活性化させる仕組みも知られており、これは自律神経系などが取っている方式です。最後に、(d)のように、一つの細胞が特定の標的を持たずに広い範囲を調節することができる広範囲調節系という仕組みがあります。
●広範囲調節系は脳のモードチェンジを司る
ここでは、広範囲調節系について詳細に説明していきます。広範囲調節系は、ニューロンがシナプスを介した速い伝達とは異なり、ゆっくりとしたアナログ的な調節を行うといわれています。脳のモードチェンジを担っているといわれており、例えば、気分の調節であったり、今までうとうとしていたのが突然覚醒に転じるなどの状態変化を司っています。ここで働く化学物質は、神経伝達物質とは区別して、「神経修飾物質」と呼ばれています。
神経修飾物質は、化学物質が細胞の外側に拡散することで、シナプス間隙に限定されないで持続時間が長く作用することが特徴的です。このような広範囲調節系のニューロン群は、他のニューロンとは区別して、「調節系ニューロン」と呼ばれていまして、脳の中心部や脳幹に集まって存在しています。これらのニューロンは、ニューロン一つで10万個以上のシナプスと接触しているといわれており、脳の広い範囲を同時多発的に活性化することができます。代表的な神経修飾物質としては、ノルアドレナリンやセロトニン、それから、ドーパミンやアセチルコリンが知られています。
●ノルアドレナリンは脳の覚醒水準を制御する
ノルアドレナリンは、睡眠と覚醒の調節に重要な神経修飾物質です。これは、特に覚醒状態で強く働くことが知られていて、睡眠状態ではその活動が停止することが報告されています。
ノルアドレナリンが増えるのは、突発的な予期せぬ刺激に対する応答の場合です。大きな音が鳴ったり、びっくりしたとき、それから痛みや、脳の中が低酸素になったり、出血が起こったりするような、何か危機的な状態を知らせるシグナルとしてノルアドレナリンが使用されています。
これは(どういうことかというと)、脳の覚醒水準を高めて注意を集中することでそのストレス状態に対処するため、ノルアドレナリンが使用されているのです。
通常、このノルアドレナリン濃度は正常に制御されていますが、これが多すぎると注意欠陥多動症になったり、少なすぎると眠気を生じたりするといわれています。
●心身の健康状態に大きく関わるセロトニン
次にセロトニンですが、さまざまな生理機能に関わっており、大きく分けて、「最適な覚醒をもたらす」、それから「心のバランスを保つ」、そして「自律神経の働きを整える」という働きがあります。したがって、本能的な行動である摂食行動や性行動、そして、睡眠に重要な働きをしていますし、それから、血圧調節や体温調節などの生存に必須な働きもしています。さらには、攻撃性や不安などの心のバランスにも重要な働きをしており、セロトニンが不足することでさまざまな病気になることが知られています。
セロトニンもノルアドレナリンと同様に、睡眠と覚醒に応じて、その働きが変化するといわれていますが、ノルアドレナリンと異なるのは、例えば、びっくりしたときや痛みを受けたときには変化しないことです。
一方で、リズミカルな運動をすることによってセロトニンが上...