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世界の中心!?ケンブリッジ大学でギリシア哲学を学ぶ

哲学の役割と近代日本の挑戦(4)ケンブリッジが「世界の中心」?

納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科 研究科長・学部長・教授
概要・テキスト
日本がバブル最後の1990年代初頭、海外留学は多い時代だったが、留学先であるイギリスの情報は乏しく、通信手段は手紙とファックスだけだったという納富氏。苦労しながら交渉して落ち着いた先はロビンソンカレッジ。そのケンブリッジ大学は「世界の中心」の自負をもってギリシア哲学を進めていく場所だった。今回は、哲学の道を歩むことになった納富氏のイギリス留学事情とともに、現在の学生との違いについてうかがっていく。(全6話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:10:03
収録日:2023/07/28
追加日:2023/10/21
タグ:
≪全文≫

●1990年代のイギリス留学事情


―― 先生は1991年に東大の哲学で修士を終えられて、親から1000万円借りてケンブリッジの(古典学部)哲学科に留学されました。5年で学位を取られたけれども、すぐには(海外での)職はありませんでした。その話をされると、今の学生はみんな引いてしまうということでした。その時の先生の心意気と、今の学生さんの違いは、何によるのでしょうか。

納富 これは難しい。実は私が行った1990年代のはじめというのは、日本からの留学者がけっこう多かった頃でした。いわゆるバブルの最後の時代ということもあり、企業からも官庁からも留学する方がたくさん来ていました。

 だから、私もある種の「どんどん行こう」という雰囲気の中へ加わったのです。個人的にお金の苦労などはしましたが、「行ったほうがいい」「みんな行くんだ」「行けば必ずいいことがある」という空気でした。私が向こうに行っている間に経済が停滞して(日本が)萎縮してしまったので、「今持っているものを守りましょう」という形で全体的なメンタリティが守りに入ってしまったという印象は受けます。

 学生に対しても、私などは「チャレンジしてみよう」「知らない世界に飛び込んでみよう」、それが面白いというのですが、今の学生たちは「リスクが…」と言ってくるわけです。それで、「リスクなんて考えたら、何もできないじゃないか」「むしろリスクがあるから行くのだ」というように思うのですが…。日本の社会が、この20~30年ほど、そういう発想ですごしてきたわけです。それは悲しいことで、少し改めないと次のステップが踏めないのでないか、と親の世代も自分も全体的に、(あるいは)一般的には思っています。

 私の時代と比べると今は恵まれていて、例えば奨学金なども今のほうがはるかに出ている状況なので、海外に行こうと思えばサポートもある。多分客観的な状況からいえば、若い人たちにチャンスが開かれている。私の時は、学生などに本当に驚かれますが、アプリケーション(申し込み)は、もちろん手紙でした。

 例えば、「願書を送ってください」と手紙をケンブリッジに出して、(返事が)戻ってくるのは2週間ぐらい後です。最悪の場合、ファックスもなかったとはいわないのですが、海外にファックスを送るなどはあまり考えていないので、全てのやり取りは手紙で、2~3週間もかかるようなところから始ま...
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