「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
推測の批判は敵を利する‥古代ローマ期『モラリア』の示唆
「イスラム国(ISIL)」日本人殺害事件に際して~「イスラム国」報道への危惧
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
「今回のイスラム国事件に際して、テレビやインターネットで繰り広げられた詮索や推測による政府批判には問題がある」と、イスラム研究の第一人者・山内昌之氏は危惧する。山内氏がイスラム国日本人殺害事件を語る。(シリーズ講話第2話目)
時間:5分12秒
収録日:2015年2月3日
追加日:2015年2月11日
≪本文≫

●推測による政府批判は、敵を利するのでは


 皆さん、こんにちは。まず次の言葉を共に聞いてみたいと思います。引用です。

 「敵は目を覚ましてあなたの行動をいつも見張っており、あらゆる点から取りつく場所を探して、あなたの生活を嗅ぎ回っている。敵はあらゆる友人や家族や知人を通して、実行できる限りあなたの行為を探り、その計画を探り当てようと徹底的に調べ上げる」。

 これは、紀元1世紀から2世紀にかけて古代ローマ時代のギリシャで活躍したプルタルコスの言葉です。『モラリア』という随想集に入っていますが、この言葉には何か凄味が感じられます。

 イスラム国による今回の日本人拉致、誘拐、殺害問題に対して、テレビやインターネットで繰り広げられた虚実交えた詮索、推測による政府批判の数々が、外に向かって不用意に発信され、無意識にイスラム国、比喩的に言えば「敵」を利する材料を与えたのではないかという点が危惧されます。そのことを示唆するかのような文章です。

 実際にイスラム国には、日本語を解する、あるいは日本から情報を伝える源があるのではないかと考えさせるほど、日本政府や国民、家族の動きや現状を踏まえた対応をしている節がありました。

 その意味で、イスラム国の提供映像を無批判にテレビニュースや情報番組で繰り返し放送するなど、イスラム国の狙った宣伝効果を客観的には高めたかのような局が一部にあったのは、まことに遺憾でありました。


●一次情報を持つのは理解者か人脈のある人


 そもそも、他ならぬ自分の出演するテレビやインターネットを除けば、一次的な情報ソースに接近できるはずのない人たちが、後藤健二氏たちの安否確認や現状について語るのはまことに難しいことです。もし、イスラム国の一次情報を持つ人物が存在するなら、それはイスラム国の理解者かシンパ、そこから情報を受ける立場にある人のいずれかでしょう。

 今のところ、イスラム国の立場を代弁し、その主張を日本で繰り返すイスラム国スポークスマンのような人はいないようですが、イスラム国に接触した事実や、イスラム国に人脈を持つことを隠さない人たちはいました。


●歴史的コンテクストの中で分析すべき


 一方、地域や危機管理の専門家にできることは、事件の歴史的な背景や性格を構造として分かりやすく解説することであり、再発防止に向けて事件から汲...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
曽根泰教
本当によくわかる経済学史(1)経済学史の概観
経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか
柿埜真吾

人気の講義ランキングTOP10
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(2)MAGAの矛盾と内戦の現状
MAGA内戦勃発…なぜトランプがMAGAの敵になってしまうのか
東秀敏
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
第2次トランプ政権の危険性と本質(1)実は「経済重視」ではない?
ブレーキなき極右ポピュリズム…文化戦争を重視し経済軽視
柿埜真吾
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(2)プロテスタントと「予定説」
カトリックとプロテスタントの違いは?「救済予定説」とは?
橋爪大三郎
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理