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負けない体制をつくり、戦わない―不戦不敗

安全保障のチャイナリスク対応(4)日本が生き残る道

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員
情報・テキスト
米中という大国のパワーシフトの下で、日本が生き残るための戦略はどのように立案すればよいのだろうか。前海上自衛隊佐世保地方総監・吉田正紀氏が、いま大きな転換点を迎えるわが国の安全保障システムを再点検しつつ、シミュレーションを重ね、安全保障上のチャイナリスクへの対応を総括する。(2014年12月1日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演より、全5話中第4話目)
時間:22:42
収録日:2014/12/01
追加日:2015/07/06
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≪全文≫

●「戦略」は「見て・決めて・動く」の3段階


 ここから、また慶應義塾大学モードに戻ります。

 「戦略と政策」と言うならば、「戦略(Strategy)」とは、ストラテジック・コンセプトのコンポーネント(一部分)です。

 まず大切なのは、情勢認識です。例えば「台頭する中国と国際システムの変容」という情勢を認識したとすれば、どうするのがよいか。

 目標設定として、いざとなったときに中国に依存しなくていいように依存度を下げていくことが、わが国の過激性や脆弱性を可能な限り低くすることに当たるだろう。もう一つ、先ほど言ったような、中国に軍事力行使の機会を与えないということもあります。

 しかし、実は逆に考えることもあり得ます。「中国との市場における相互依存度を高める」戦略も、ありです。「経済的相互確証破壊」ということです。要するに目標設定自体は、それぞれの方針次第です。

 次は「手段の確保とその運用」ということで、軍事、経済、科学技術、ソフトパワー、外交的友好関係など、ありとあらゆる手を使って味方を増やし、敵を絞ることで、相手の有利な手を封じ、自分の不足をカバーする。このあたりが、実際に役立つものだと思います。


●「政策」を「戦略」「作戦」と混同しない


 それでは「政策(Policy)」とは何かを厳密に言えば、技術には至らない「方向」なのだそうです。アベノミクスは政策ですから、目標は何となくありますが、なかなかうまくいかない。これは、戦略ではないからなのです。

 一番に、「関与か、取り込みか、封じ込めか」。中国については、とにかく「関与しよう」と“engagement”してきました。「取り込もう」は“integration”、「封じ込め」は“hedge”になります。

 次に「戦略互恵関係(Strategic partnership)」。

 三つ目に「『戦わずして勝つ』孫子の兵法」と書きましたが、われわれ西側の言葉では、これが政策に当たるのではないかと考えています。

 一方、政策と戦略の混同はよく起こります。今は「Re‐balancing」が「ポリシーかストラテジーか」とよく問われます。私は先日台湾へ行きましたが、台湾では「リバランシング・ストラテジーによれば」と言います。ところが日本は、ストラテジーではなくポリシーと言っています。

 台湾の方が「ストラテジーでリバランスすると言ったのに、中東の方ばかりへ行って、全然来ないではないか」と怒るのは、「リバランス」をストラテジーで捉えているからです。私たちの方は「ポリシーだから、そういうこともあるだろう」と怒らない。そういういった違いが見られます。

 戦略と作戦の混同は、「エアシー・バトル」ストラテジーの場合もそうです。あれは、私はストラテジーではなくオペレーション、あくまで作戦レベルだろうと思っています。


●変わり始めた日本の安全保障システム


 わが国の安全保障システムは、実は今、大きく変わっています。詳しくは緑の冊子に書いてありますので、後で読んでください。

 その源流は、今まで絶対に変わらないと言ってきたところにあります。私が在籍した40年間、ずっと動かなかったところが、今や変わろうとしています。

 安倍政権になってから、2013年末までの変化として、まず、わが国初の「国家安全保障戦略(NSS)」が策定されました。戦略を策定すると具体的にドライブしますので、そのための「国家安全保障会議(日本版NSC)」を設け、事務局に初めて制服の自衛官を13名配員しています。

 また、戦略を持つと、同盟国や同志国とともに機微な情報を共有していなければならないため、秘密保護法をつくりました。さらに、それに基づいて、「防衛計画の大綱」と中期防を策定しました。

 今年に入ってもこの動きは変わらず、「防衛装備移転三原則」が策定され、「武器輸出三原則」を変えました。安全保障政策の一環として武器輸出ができる道を開いたのです。

 そして、政府与党として新たな憲法解釈を提示して、ここに書いた「PKO活動等への国際スタンダードに沿った参加」「現実に即した後方支援の実現」「一定の条件下での集団的自衛権行使の可能性」を導き出しています。これは、まさに今、進行中の話です。


●大綱に記された二つの「グレーゾーン」


 NSSの下でできた大綱の中の安全保障環境はどうなるかというと、まず、グローバルな安全保障環境において、わが国にとっての「グレーゾーン」が出てきました。次に、アジア太平洋地域における安全保障環境としては、「グレーゾーン」事態の長期化によって、より重大な事態に転じる可能性の懸念が出ています。

 グローバルな中では、「純然たる有事でも平時でもないグレーゾーンの事態」が増加...
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