吉田松陰の思想
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
戦前、井上哲次郎は吉田松陰を「陽明学者」と位置付ける
吉田松陰の思想(上)松陰像の変遷(3)陽明学者・教育家・史論家
哲学と生き方
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
吉田松陰とは何なのか。かつて松陰は、維新に向けて人を育てた教育者であると捉えられてきた。しかし、東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏は、松陰はそういったカテゴリーに収まりきらない思想家ではないかと言う。戦後になって現れた、新たな松陰像とはどのようなものだったのか。井上哲次郎と奈良本辰也の著作を手引きに、中島氏が論じる。シリーズ「吉田松陰の思想」第3回。
時間:10分39秒
収録日:2015年2月26日
追加日:2015年7月20日
≪全文≫

●井上哲次郎の松陰評(1)陽明学者


 吉田松陰の思想について話を続けたいと思います。前回、田中彰先生の議論に基づいて、それを補足する形でお話をしましたので、今度は田中先生が触れられていない文献に注目してみたいと思います。

 それは、井上哲次郎の『日本陽明学派之哲学』(1900年)です。徳富蘇峰の『吉田松陰』の後に出た本ですが、井上哲次郎は、松陰の没後50年記念大会でも追頌(ついしょう)演説をしていますので、彼が吉田松陰に対し並々ならぬ思いを持っていたことは確かです。この本は井上の三部作といわれるもののうち、最初に書かれた著作で、松陰を陽明学者として定義しています。この陽明学者・松陰という像、あるいはイメージは、当時相当に共有されたイメージだったのだろうと思います。

 ただ、実際に松陰の著作を読んでみても、いわゆる陽明学者、すなわち王陽明の考えを祖述するという意味での陽明学者とは、全く違うものだろうと思います。ですから、松陰は、王陽明、あるいはその周辺の門人たちを祖述して奉る、というやり方とは違う形で、陽明学を自分のものにしていったのです。松陰はそういう思想家だと捉えた方がいいのかもしれません。

 井上は、吉田松陰に関して、こういうことを言っています。現代語に訳して紹介しますと、井上は“その学問はいまだ必ずしも陽明に限られないのだが、しかし甚だ陽明に近いものである”と言っているのです。松陰の読書歴を見ると、陽明の『伝習録』を読んでいます。また、陽明学左派と通常呼ばれている李卓吾(李贄)の『焚書』を読んでいますので、松陰がラディカルな陽明学に触れていることは確かです。それから、大塩平八郎の『洗心洞箚記』を読んでいることからも、松陰が陽明学に近づいていたことは確かですが、松陰自身が「私は陽明学者ではない」と言っている箇所もあります。そのため、この井上の定義は、少し割り引いて考えた方がいいのではないかという気もしています。しかし、この本が陽明学者・松陰という像をつくったのは確かだと思います。

 では、松陰の思想家としての内実に関して、井上がどう述べているかというと、実はあまり高く評価していません。井上はこう書いています。松陰は29歳で亡くなっていますが、“彼は時務に関する論著は多いのだが、しかし学理の見るべきものほとんどまれなり”という評価を与えています。つ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
イスラム教におけるシーア派とスンニ派の違い
イスラム教スンニ派とシーア派の違いとは?
山内昌之
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
もののあはれと日本の道徳・倫理(1)もののあはれへの共感と倫理
本居宣長が考えた「もののあはれ」と倫理の基礎
板東洋介

人気の講義ランキングTOP10
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
クーデターの条件~台湾を事例に考える(5)世直しクーデターとその成功条件
歴史のif…2.26事件はなぜ成功しなかったのか
上杉勇司
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー
国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?
垂秀夫
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
チームパフォーマンスを高める心理的安全性(1)心理的安全性が注目される理由
なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る
青島未佳
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
生成AI「Round 2」への向き合い方(6)生成AIとともに働くCopilot活用法
劇的に時短!企画書、議事録、資料管理…Copilot活用法
渡辺宣彦